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解決は困難?タイの政治対立

2013年12月18日

経済調査部 エコノミスト 新田 尭之

日本のメディアでも大きく取り上げられている通り、タイの政治が混迷を深めている。きっかけは10月31日にインラック首相(タクシン元首相の妹)率いる与党のタイ貢献党が恩赦法の対象に急遽政治指導者を追加し、翌日11月1日に下院で強行採決したことであった。この法律の対象には国外追放されたタクシン元首相が含まれていたことから、反タクシン派はデモや大規模集会を開催した。結局、法案は上院で否決されて廃案となったがデモは収まらなかった。反政府のデモ隊はタクシン体制を打倒するまでデモを継続する姿勢を示し、財務省や外務省などの政府機関や国営タイ放送などの放送局を占拠した。そして反タクシン派のリーダーであるステープ元副首相が最終決戦とした12月9日、インラック首相は下院を解散することを表明した。総選挙は2014年2月2日に実施される予定である。

多数派であるタクシン派は選挙を通じた民主主義を重要視している。タクシン派の主な支持層は長年政治からほとんど無視されてきた農民である。タクシン元首相は2001年の選挙の時に農村支援を掲げて勝利し、首相に就任した後は農民債務モラトリアム、30バーツ健康保険制度などの積極的な農村振興策を次々に実施した。これらの政策の結果、農民の生活環境は劇的に改善した。こうして、農民は自らが政治に大きな影響を与え、それが自らの生活水準の向上に繋がることを自覚するようになったのである。

一方、都市部の中間層が多くを占め、少数派である反タクシン派は選挙をあまり重視していない。彼らに言わせれば、選挙をいくら行ってもタクシン派が貧しい農村部の住民を買収することで勝利するため、汚職と腐敗にまみれた政治家が誕生するだけであるとしている。そのため彼らは議席の多くを医者、教員、弁護士、労働者等の協会の代表者から選出すべきであると主張している。

予定通り総選挙が行われれば、人口の半数以上を占める農村を支持基盤としているタクシン派が勝利する公算が大きい。またタイ貢献党は総選挙の比例代表名簿第一位をインラック首相としていることから、このまま行けばインラック体制は継続する可能性が高い。一方、反タクシン派は選挙ではタクシン派に勝てないと認識しており、選挙自体をボイコットしようとする動きを見せている。また、ステープ元副首相は軍主催のフォーラムに出席するなど、選挙以外の手段で政権に揺さぶりをかけようとしている。

以上のように、両派の民主主義に対する考え方の溝は極めて深い。これまでも片方が政権を奪取すればもう片方がデモを行い、時には軍が出動して流血沙汰となることもあった。今後も民主主義のあり方に対して両派が同じ認識を共有できなければ、タイの政治的混乱は終わらないのでないだろうか。

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