2020年東京オリンピックイヤーを見据えた事業仮説づくり

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2013年12月02日

  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 吉川 英徳

2020年の東京オリンピック招致の決定の知らせを聞いて、多くの人は7年後の自分の家族の姿をイメージしたに違いない。同時にその時の東京がどうなっているのか思いを巡らせた人も多いであろう。また、2020年の自社の姿を想像した経営者も多いであろう。

とはいえ、未来を予想するのは難しい。小職も証券アナリストだった時に、不確実性要素が多い中で、中長期どころか1年先の未来(の業績)を予測する苦労を身に染みて感じていた。

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という格言がある。パーソナル・コンピューターの父と言われる米国の計算機学者のアラン・ケイの言葉である。その格言に従うなら、多様な要因を詳細に分析して2020年の未来を精緻に予測するのではなく、その想定されうる「あるべき未来」を自ら積極的に創り上げていくのが、最も良い方法となる。

その「あるべき未来」を考える際に、外してはならない大きな視点は2つあると考える。1つが社会トレンドという世の中が求めている大きな流れであり、もう1つはその流れの中で自社が何の価値を他者に提供できるかという視点である。言い換えれば、「どのように自社の未来をデザインするのか」という観点である。

例えば、社会トレンドと自社が他者に提供する価値を上手く合わせつつ成長した企業として村田製作所がある。同社は、電子機器の小型化・高機能化という大きな流れの中で、率先して電子部品の小型化に取り組んできた。特に基幹製品である積層セラミックコンデンサについては、限界までの小型化を実現する為に、材料から一貫した研究開発・生産体制を構築している。また、顧客ニーズを取り込んだ10年先の電子部品を見据えたロードマップを作成し、それに基づいて事業戦略を構築している。同社は電子部品の小型化を率先することで、同社の顧客である電子機器メーカー等が電子機器の小型化・高機能化を実現するのを支援し、最終的には一般消費者の使い勝手向上を実現している。

翻って、日本企業の未来に大きな影響を与えるこれから起こるであろう社会トレンドを考える時に、間違いなく1つの大きなポイントは“2020年の東京オリンピック開催”に向けて何が起こるかという視点である。東京都は経済波及効果を約3兆円と試算しており、東京五輪に向けたインフラ整備や訪日観光客向けビジネスなどで特に大きな寄与があると言われている。直接的な効果が期待できる建設・不動産・観光・運輸関連ビジネス以外においても、世界の注目が日本に集まることにより、日本独自の文化、製品やサービス(例:食文化やマンガ等)に脚光が当たる可能性が高い。既に、日本食やアニメなど日本発のコンテンツに世界的な関心が寄せられているが、その動きを加速させる可能性がある。もしくは、スマートフォンの次の世代に当たるモバイル端末が主流になっていて、それを通じて、多くの人が手軽に臨場感あふれる東京オリンピックを楽しむかもしれない。

未来を創るためには、上記のような社会トレンドに沿う形で、自社が顧客に対してどんな価値を提供すべきか、という事業仮説を構築し、実行する必要がある。実際には、その価値の提供手段についても同様と言える。また、世の中は常に変化しており、過去に構築した事業仮説はすぐに陳腐化してしまうリスクがあるので、仮説を作る際に「前提条件」をきちんと確認し、その前提条件の変化の有無を適宜チェックする必要がある。また、事業仮説の結果についてもきちんと検証し、臨機応変に仮説を修正する必要がある。

未来を創り上げていくという作業は経営者だけでは困難なケースも想定される。また、未来を実現する上では現場を巻き込むことになり、経営者と現場が一体となって未来を創る視点も重要だろう。その際に、事業仮説を現場で共有し、進捗管理を行う為には、経営者の頭の中のイメージで留めるのではなく、言語化・定量化した、事業計画という形でまとめ上げる必要がある。

2020年までまだ7年近くある。今回の2020年の東京オリンピック招致決定を契機に、自社がどのような未来を創っていくのかを、まずは事業仮説づくりから始める良い機会ではないか。

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吉川 英徳
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