「水銀に関する水俣条約」を全会一致で採択

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2013年11月11日

  • 伊藤 正晴

2013年10月10日に熊本市において開催された外交会議において、「水銀に関する水俣条約」が全会一致で採択され、EUを含む92か国が条約への署名を行った(※1)。この条約は、水銀が人の健康及び環境に及ぼすリスクを低減するため、水銀の産出、使用、環境への排出、廃棄など、そのライフサイクル全般にわたって包括的な規制を定めている。日本で1956年に公式に確認された水俣病は、メチル水銀を含んだ化学工場からの排水による公害であり、人に対する健康被害や自然環境の破壊などにおいて大きな問題となった。そして、この問題を契機に公害対策の重要性が認識され、環境保全のための政策や技術が進展したとされる。しかし、国際的にみると水銀は現在もなお健康被害や環境汚染が懸念されており、水俣病の経験を持つ日本が積極的に貢献し、名称に「水俣」が付された条約が全会一致で採択された。条約は、50番目の国が締結した日から90日後に発効する。

日本では、どの程度の水銀が使用されているのであろうか。環境省「水俣病の教訓と日本の水銀対策」によると、水銀の需要はピークの1964年で年間約2,500トンであったが、その後は他の安全な物質への代替や水銀使用量の削減などで急速に減少し、近年では年間約10トン程度となっている。工業分野では、か性ソーダ、塩素、塩化ビニルモノマーやアセトアルデヒドの製造などで水銀が使用されていたが、これらはすべて水銀を用いない方法に転換された。身近なものでは、水銀体温計から電子式体温計へと移行したこと、無水銀の電池が開発されたことなどで水銀を使用した製品が急速に減っている。また、発光の原理上、微量の水銀を必要とする蛍光ランプでも水銀の封入量が削減されている。

このように、日本における水銀の使用量は大きく減っているのであるが、人の健康や環境への影響を考える際には、環境中にどの程度の水銀が排出されているかを知る必要があろう。そこで、同資料で紹介されている水銀のマテリアルフローをみると、2010年度の環境への水銀の排出量は18~23トンと推計されている。需要量を超える水銀が環境中へ排出されているのである。また、その内訳は大気への排出量が17~22トン、公共用水域への放出量が0.3トン、土壌への放出量が0.45トンとなっており、環境中への排出は大気への排出がほとんどを占めている。

では、世界全体ではどの程度の水銀が大気中へ排出されているのであろうか。国際連合環境計画(UNEP)の“Global Mercury Assessment 2013”では、2010年における世界全体での大気中への水銀の排出量を1,960トンと推計している。排出源別では、小規模金採掘が727トン、石炭の燃焼が474トンで、両者で全体の約6割を占めている。また、地域別ではアジア(※2)が931トン、アフリカ(※3)が329.6トンとなっており、途上国での金の採掘と石炭の燃焼が主要な排出源となっているようである。

岸田外務大臣が条約に署名後、我が国の支援策として大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理の3つの分野で今後3年間で総額20億ドルのODAによる支援を実施すること、途上国による条約の締結を支援するために水銀汚染防止に特化した人材教育支援を実施することを表明した。これら支援策が実を結び、水銀による汚染のない世界が実現することを期待したい。

(※1)下記の各省のWebページに関連する情報が掲載されている。

(※2)East and Southeast Asiaの777トンとSouth Asiaの154トンを合計した。

(※3)North Africaの13.6トンとSub-Saharan Africaの316トンを合計した。

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