金融教育として確定申告の奨励を
2013年10月31日
10月からNISA(少額投資非課税制度)の税務署への申し込みが始まり、国税庁によると、初日だけで358万件も提出された。「貯蓄から投資へ」を推し進めようとする立場からは、このまま、順調に制度活用が進んでいってほしいと期待する。
もちろん、一つの制度導入だけで「貯蓄から投資へ」が爆発的に進むと期待するのは、やや考えが甘いかもしれない。この制度は投資初心者を多く呼び込もうとするものだが、そうした人々に「非課税のメリット」が理解されるのか、よくわからない。これまで、高い期待リターンを求めて行動を起こしてきた投資上級者であれば、税率20%(来年から適用される配当・譲渡益課税の本則税率)の重さがよくわかるだろうが、年利1%に満たない金利でしか資産を持ったことのない人に、税率20%の重さといっても、ピンと来ないかもしれない。非課税のメリットを理解してもらうために、金融機関担当者が丁寧な説明を地道に続ける必要があることは、言うまでもない。
「貯蓄から投資へ」が進まない理由の一つとして、「金融リテラシーの欠如」が挙げられることが多い。株式や債券などへの投資どころか、「おカネ」に対する知識が十分に備わっていないから、現預金に野積みされてしまう、という推測である。中学・高校教育の段階から「金融教育」を行うことで状況の改善を図ろうという動きがある。
どうして、おカネの知識が少ないのか。その理由の一つとして、日本企業が従業員のおカネの面倒を見過ぎてきたことがあるのではないか。毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料が天引きされ、年末になると勝手に金額を調整してくれる。かつては、社内預金で高利の貯蓄ができたり、住宅資金を貸し付けてくれる会社も少なくなかった。定年まで勤め上げれば退職金や企業年金を受け取れるため、意識的に貯蓄しなくてもよかった。
しかし、時代は変わったのである。自ら資産形成に努めなければ、将来の生活資金は保障されないのである。そのために、自らおカネの知識を身に付ける必要があるわけだが、その有効な促進策として、若い頃から所得税の「確定申告」を奨励してはどうか(バイト代を稼ぐ学生の時分からでもよいだろう)。極論すれば義務化を考えてもよいかもしれない。
確定申告を行えば、自分がどれだけ税金を納めているのか、つぶさにわかることになる。おカネの使い方も考えるだろうし、資産運用について真剣に考える向きも増えるかもしれない。NISAを活用して、非課税のメリットを最大限活用しようという機運が高まる可能性もあるだろう。
これまで、知識の少ない納税者に手間をかけさせるよりは、源泉徴収という形で企業が代行して徴税することを優先させてきたように感じるが、金融教育の観点も取り入れて、より納税者本人に直接税金を納めさせる政策は取れないだろうか。そうすれば、「納税」に対する意識も強まるし、税金の使い道を決める国政や地方自治に対する参加意識も自ずと高まるのではないか。
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