2016
2013年10月22日
10月1日の政府機関の一部閉鎖から始まった米国の財政問題を巡る一連の政治的混乱は、土壇場でデフォルト危機が回避され最悪の事態には陥らなかった。緊迫した議会内のやり取りが伝えられてきたが、例えば、9月末の上院と下院の間でお互いに暫定予算案を投げ合うさまなどは相手の球を打ち返していないだけに、ピンポンのラリーというよりは、相手に当たらないことを前提に撃ち合っているショーに見えて滑稽だった。それに、2011年夏のデフォルト騒ぎや昨年末から年始にかけての“財政の崖”を巡る攻防を経験済みの目の肥えた観客にはどのように映っただろうか。何せ“崖”からの転落回避の法案は1月1日、元日の午前1時半過ぎに上院で、午後11時直前に下院で可決されたのである。
一抹の不安があればそれに備えるのがマーケットの常であろうが、こう何度もチキンゲームを見せられると、慣れてしまうのは仕方がないこと。“今回も何とかなるでしょう、政治家も馬鹿じゃないんだから”と、一連の騒動に対する市場の反応は限定的だったとみられる。従って、完璧な筋書きの“やらせ”を見ているようだという感想が聞こえてきても不思議ではないだろう。しかし、世の中に絶対がないように、いつ“狼少年”と同じ目に遭うかわからない。
今回の騒動は、共和党が予算審議と債務上限問題にオバマケアを絡めてきたことが発端になるが、結果的にオバマケアは極めて僅かな修正にとどまり、厳しい世論を前にして共和党は方針転換を余儀なくされたと、一般的に受け止められている。特に下院共和党指導部の力不足を露呈した格好だが、共和党内の強硬派にとっては熱狂的なコアのファンに受けることが重要であって、党の支持率が3割を下回る過去最低になっても気に留めず、むしろそれで十分と考えている可能性さえある。そんなに考え方が異なるならば分裂してしまえばいいのにというのが、政党の離合集散を見慣れた日本人の感想だろうが、なかなか第三の政党が育ちにくい米国の二大政党制の弊害といえるかもしれない。
さて、7月の参議院選挙の結果によってねじれ状態が漸く解消した日本の国会が先週から再開されたが、山積する様々な課題に対して、どの程度スムーズに答えを出していくのか注目される。もし衆議院の途中解散がなければ2016年に衆参揃っての選挙が予想され、同年11月には米国でも大統領選挙が実施される。片や日本では、現与党がさらなる政権運営を目論んで気勢を上げている可能性があるのに対して、任期切れとなるオバマ大統領はどのような立場で最終年を迎えているだろうか。支持率30%前後で低迷したブッシュ前大統領のように、応援演説にほとんど呼ばれず静かに黄昏を迎えているのか、それとも、まだまだ50代半ば(今の安倍首相よりも若い)、元気に全米中を駆けずり回っているか。
オバマ大統領とブッシュ前大統領の支持率の推移を比べてみると、ブッシュ前大統領の場合、2001年の9.11によって大幅に跳ね上がった後低下していったが、4年目まで概ね50%を維持したのに対して、オバマ大統領は2年目早々に50%を割り込んだまま。このように両者は一期目こそ大きく異なるものの、再選を果たしてからはほとんど重なっている(グラフ参照)。そして、ブッシュ前大統領の2期目はほぼ一貫して低下を辿っていった。今回の騒動で共和党の支持率は急低下したが、一方のオバマ大統領の支持率が上昇に転じる兆しも見られない。オバマ大統領が危機回避後の記者会見で“勝者は誰もいない”と語った通りといえよう。
いずれにしても、これからもオバマ大統領は2014年の中間選挙で勝利してねじれ状態を変えようと全力になるはずだ。それ故、年明けに先送りされた暫定措置の行方には楽観的になれない。勝者なきチキンゲームは続く。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也