円安による物価上昇と家計の不満
2013年07月22日
日銀が2%の物価目標政策を採用し、その達成手段として「量的・質的金融緩和」を導入して以来、物価動向に対する注目度は以前より大きく高まっている。そのような中、消費者物価指数(除く生鮮食品、以下コアCPI)は、2013年5月には前年比0.0%となり、7ヶ月ぶりにマイナスから脱した。また、6月の東京都区部のコアCPIは、前年比+0.2%と2ヶ月連続で上昇しており、物価上昇に向けた動きが見られていると言えるだろう。
コアCPIの内訳を見ると、エネルギー価格の上昇が主な押し上げ要因となっており、昨年末からの円安による輸入物価の上昇が物価の下げ止まりに大きく寄与していることがうかがえる。また、2013年7月には、小麦粉、パン、油、肉製品など、多くの品目で小売価格が値上げされたように、円安による川上価格の上昇が消費者物価に転嫁される動きも見られている。
しかし、物価上昇の広がりを確認するために、消費者物価DI(コアCPI構成品目のうち、上昇している品目の割合と下落している品目の割合の差)を見ると、足下で物価上昇品目が急激な広がりを見せているとは言い難い。コアCPIの変化率がほぼゼロ近傍で推移し、足下と同程度であった2007年頃の消費者物価DIがプラス圏で推移していたのに対して、2013年5月時点のDIは-17.6%ptと、依然マイナス圏に留まっている。これは裏を返せば、エネルギーを中心とした一部の品目の物価が大きく上昇することで、物価全体を押し上げていることを示唆している。
こうした一部の品目に偏った物価上昇は、消費構造の違いによって、各家計に与える影響が異なる点が問題である。足下ではエネルギー価格の上昇が主な物価押し上げ要因となっているため、エネルギーに対する支出の多い家計が直面する物価は、相対的に上昇幅が大きくなる。傾向的には自動車の利用頻度が高い地方圏の方が都市圏に比べてガソリン代の支出が多くなり、気温が低い地域ほど冬場の光熱費が高くなるため、エネルギー関連の支出が多く、物価上昇による負担増が大きい。
輸出や企業収益の増加によるプラス効果が物価上昇によるマイナス効果を上回るため、将来的に円安は日本経済にとってプラスであるという議論はその通りだと思われるが、それはあくまでマクロで見た場合である。円安による賃金上昇の恩恵を受けられるのは、当面、輸出関連産業に従事している労働者が中心であり、円安による物価上昇で負担を強いられている家計とは必ずしも一致しない。資源価格上昇による輸入物価の上昇は、すべての家計にとって等しくコストの増加となるが、円安を背景とした輸入物価の上昇は、メリットを享受する家計がいるからこそ、むしろデメリットを受ける家計の不満が短期的に高まりやすいと思われる。
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- 執筆者紹介
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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