金利上昇の効用に期待

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2013年07月11日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

4月の「異次元緩和」発表から3ヵ月が経った。この間の長期金利の反転上昇については、様々な捉え方がなされている。

ネガティブな捉え方としては、本来の意図であるポートフォリオ・リバランス効果が十分発現せずに、生保等の機関投資家においては引き続き国債に重心を置いた運用となる可能性を指摘する声である。また、短期的には、膨大な国債を保有している銀行部門の収益を圧迫する懸念も持たれている。さらに、長期的に金利上昇が続けば、国債の利払い費上昇による財政面への悪影響も避けられなくなる、という懸念もあるだろう。

一方で、ポジティブな捉え方もある。それは、アベノミクスが目指すデフレ脱却を先取りした動きとして歓迎する捉え方だ。そして、もう一つ指摘したいのは、金利水準の上昇によって、これまでの歪んだ金融構造が正常化に向かうきっかけになるかもしれない、という期待である。

これまでの超低金利環境で何が起こっていたかというと、第一に、銀行の利ザヤ縮小である。利ザヤが縮小すれば信用コスト(貸し倒れコスト)を賄うのが困難になり、信用リスクの大きい貸出先への融資は避けられがちとなる。その結果、貸出は優良先に集中して、競争原理から貸出金利がさらに低下するという悪循環が起こっている。そのため、現在の銀行部門にリスクの高い成長マネー供給を期待するのは、なかなか難しい。しかし、金利水準が(短期も含めて)上昇すれば、貸出金利を引き上げやすくなり、これまでの悪循環を断ち切れるかもしれない。

また、機関投資家においては、「リスク・フリー・レート」がゼロに近づく中で、インカム収益を得にくくなっている実態がある。その結果、年金基金などにおいては、安定収益を確保する目的で、ヘッジファンド投資の割合を引き上げる動機付けになっていたと思われる。一定程度の組み入れであればよいが、行き過ぎると、思わぬ損失リスクを抱える可能性が高まってしまう。リスク・フリー・レートが高まれば、運用者も、より柔軟な運用を行うことができるのではないか。

それは家計においても同じである。リスクが相対的に低い投資商品(たとえば国債)のリターンがあまりに低く、「ローリスク・ローリターン」か「ハイリスク・ハイリターン」かに、選択肢が二分していた可能性がある。それが「貯蓄から投資へ」が進まない一つの理由になっていた可能性が指摘される。

家計は、決して収益性に無頓着なわけではないだろう。その証左の一つとして、ここもとの金利上昇下における個人向け債券の発行増加が挙げられる。個人向け国債は、昨年後半以降の金利低下で、発行が低迷していたが、利回りが上昇した7月債の発行額(約4,700億円)は4月債の1.9倍となった。また、4-6月期の個人向け社債の発行額も四半期ベースで史上2番目の規模(約7,500億円)にのぼっている。ミドルリスク商品である債券の利回り水準が上昇すれば、これを入り口に個人マネーが動き始める期待が高まろう。

もちろん、急激に金利が上昇すればデメリットが大きく現れてしまうだろう。緩やかな上昇を遂げられるようにすることが、今の日銀に求められている最も重要な使命ではないだろうか。

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保志 泰
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