茨城県南部の西高東低から人口減少時代の都市開発を考える
2013年07月02日
茨城県の主要都市といえば、北部には水戸徳川家の城下町であり、現在の県庁所在地である水戸市が挙げられる。南部には、土浦藩の城下町であり、水陸交通の要地として栄えてきた土浦市や、国の試験研究機関や大学等が整備された筑波研究学園都市を擁するつくば市がある。
筑波研究学園都市は科学技術振興と高等教育の充実という目的に加え、東京の過密対策(首都圏既成市街地への人口の過度集中の緩和)として1963年に建設が決定した。今では国・民間問わず、多くの研究機関・企業が集まる日本最大の研究開発拠点となっている。2005年にはつくばエクスプレス(以下、TX)が開通し、東京からのアクセスが格段に改善した。つくば駅の2011年度乗車員数(1日平均、以下同じ)をみると、開業時(2005年度)から約4割増加している。沿線の開発も進んでおり、守谷駅の乗車員数も開業時から約9割増加している。つくば市・守谷市ともに、総人口や就業者数、小売店数や飲食店数など、増加基調が続いている。
人口が日本全体で増加している状態であれば、都市開発により新しく整備された街はその増加分を吸収する役割を果たす。筑波研究学園都市の建設目的にも、東京の過密対策があった。しかし、日本の人口が減少に転じ、出生率が低迷する現在、ある地域の人口増加は、他の地域の人口減少の裏返しになっていないだろうか。
例えば、TXの開通後、近隣駅の乗車員数は減少傾向にある(図表参照)。TX開通前は筑波大学(筑波キャンパス)へのアクセスは土浦駅や荒川沖駅、ひたち野うしく駅からバスで向かうことが一般的であったが、開通後はつくば駅が最寄りとなり、人の流れが変わった。2010年には筑波銀行が本部機能を土浦駅近辺からつくば駅近辺に移転した(※1)。土浦市は総人口こそ微減にとどまるが、就業者数や小売店数・飲食店数は減少傾向にあり、茨城県南部の経済天気図は西高東低の様相である。
TX沿線開発事業はバブル経済崩壊後の長期的な地価下落の影響などにより,多額の将来負担(※2)も見込まれている。その負担は恩恵を受けていない県民にも及ぶ。人口減少時代の都市開発は合成の誤謬を生じないよう、広い視野で行う必要があるだろう。

(※1)関東つくば銀行と茨城銀行の合併に伴うもので、関東つくば銀行の本部機能が土浦市内にあった(茨城銀行は水戸市内)。
(※2)茨城県によれば、平成23年度決算ベースで将来負担は764億円(実質的な将来負担額は433億円)を見込んでいる。ここでいう実質的な将来負担額とは、 県債の繰上償還対策の財源であるTX鉄道会社からの償還剰余金(431億円-100億円(実施済み)=331億円)を特定財源とし,将来負担額から差し引 いた額である。(茨城県企画部 つくば・ひたちなか整備局 つくば地域振興課「つくばエクスプレス沿線開発事業における将来負担対策について」)
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