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年金スライドに関する素朴な疑問と提案

2013年06月27日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 政策調査部長 鈴木 準

6月14日に閣議決定された「骨太の方針」には「マクロ経済スライドについては、物価・賃金の上昇が想定される下で、特例水準を速やかに解消した後、法律にのっとり直ちに実施する」という一文がある。ここでは年金額のスライド(改定)について考えてみたい。

第一に、物価がどの時点からどの程度上昇するか明確なわけではない。マクロ経済スライドの調整率は1%を超える局面も今後は見込まれ、物価動向次第ではマクロ経済スライドが十分に働かない可能性がある。現行制度上、名目年金額が下がらない範囲でそれを実施することになっているからである。デフレ脱却を目指すと同時に、制度としてはデフレや低インフレの下でもマクロ経済スライドが完全にかかる仕組みとしておくべきだ。

第二に、実質賃金の変動に物価変動を上乗せしたものが名目賃金の変化であるのが通常の経済だが、現行のルールには、名目賃金上昇率が物価上昇率を下回るケースについて特例が定められている。例えば、物価が2%で賃金が1%であると、マクロ経済スライドを適用する前の既裁定年金の改定率は2%ではなく1%となる。物価が2%で賃金がマイナス1%なら改定率はゼロである。

なぜ既裁定年金の改定に賃金が関係してくるのか。現在、67歳以下の新規裁定者の年金は3年平均でみた実質賃金の動きを考慮した賃金スライドになっている。すなわち、受給開始後数年間で生涯の年金が最終的に決まる仕組みであり、その数年間における賃金の短期変動が均されるよう新規裁定者に配慮している。その際、物価で決まる既裁定者の改定率が賃金で決まる新規裁定者のそれより大きくなるのは不適切と考えられているのである。

持続的な賃金上昇なしには安定的な物価上昇は見込めないから、この特例をことさら問題視する必要はない。しかし、生活費である年金が物価を基準に改定されないケースがあるのは、考え方として無理がないだろうか。合理的なやり方で受給開始時に年金額が裁定され、ひとたび裁定された年金は賃金動向には影響されずに物価で改定される仕組みの方が分かりやすいし望ましい。インフレ下では年金積立金からの名目収益も増えるはずだ。

第三に、既裁定年金は物価スライドを基本とした上で、一定期間、基礎年金も報酬比例年金もマクロ経済スライドの適用が必須である。賦課方式年金の支え手の減少分と受給者の余命の伸長分だけ給付を抑制するマクロ経済スライドは、本来、物価や賃金とは関係がない。確かに高齢化はマクロ経済に影響を与えるが、年金制度への理解を深めるためにマクロ経済スライドは「超高齢社会対応スライド」とでも名称を変更すべきである。

最後、第四に、発想を根本から変えれば賃金動向を年金に反映させることは十分あり得る。すなわち、新規裁定者と既裁定者の関係からではなく、年金受給者と保険料負担者の関係において賃金低迷の影響(現役層の苦境)を年金受給者も分かち合わなければならない点に年金問題の本質がある。実質賃金が伸びない中では潤沢な年金は維持できない。賃金対比の年金水準を抑制する方法はいくつかあるが、その第一歩がマクロ経済スライド(超高齢社会対応スライド)を早く確実に実施することである。

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鈴木 準

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