北京のインフラ整備は終わったのか?

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2013年06月17日

2013年6月、北京市を初めて訪れる機会を得た。

滞在中は、地下鉄や空港などのインフラの一部が平均的な先進国以上の水準に達していることに何度も驚いた。特に印象に残ったのは北京~天津間の移動で使用した高速鉄道である。中国の高速鉄道と聞いて真っ先に連想するのが2011年7月23日の温州鉄道事故であったため、高速鉄道の席に着いて動き出すまで少し恐怖を感じていた。しかし、いったん動き出した後は走行中の揺れは少なく、加えて自席と前の座席との間隔もかなり広かったので、乗り心地は日本の新幹線よりも快適だった。

その反面、不便だと感じることも多々あった。第一に挙げられるのは交通渋滞である。北京を含め、中国の多くの都市では、自動車の急速な普及や運転手のマナーの悪さなどが原因で、朝晩の通勤ラッシュ時は渋滞が多発する。このため、滞在中にタクシー等で移動する時には、渋滞に巻き込まれるリスクを想定して早めに出発する必要があった。しかし、早めに出発して渋滞に巻き込まれずに到着すると、時間を潰す羽目になる。この経験から、交通渋滞から発生する経済的損失は中国ではかなりの額に上るのではないかと感じた。

また、道路の水はけが東京都心部と比べてかなり悪いことも気になった。小雨が降ったある日には、北京の中心部にある紫禁城(故宮)周辺の歩道では大きな水溜まりがいくつもできており、清掃係とみられる女性が箒で掃き流していた。北京随一の繁華街である王府井でも、水溜まりを避けるため数メートル迂回することが何度もあった。北京では2012年7月21日に発生した記録の残る1951年以降で最大の豪雨によって大きな被害を受けたが、排水システムの未整備も被害拡大の大きな要因であったのではないか。

総じて、北京では空港や地下鉄など外から見て分かりやすい部分のインフラは整備されているが、それ以外の部分はなおざりにされている印象を受けた。しかし、これは裏を返せば北京のような大都市でもインフラ投資の余地は依然大きいと考えられる。例えば、北京市は上述の洪水を受けて、2012年7月31日に治水・洪水対策に今後3年間で88億元拠出すると発表した。今後も生活改善に向けたインフラ投資は政府主導で持続的に進められると見込まれる。

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新田 尭之
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 新田 尭之