名目GDPの低下と「デフレ感」
2013年05月16日
先般、1998年を節目とした日本経済の変貌について論じたところである(※1)。
そこでは紹介しなかったが、実は、下図のように、名目GDPも1997年度までは基本的に増加を続けていた。しかし、デフレーターやCPI(消費者物価指数)の継続的低下が始まった1998年度に名目GDPも減少し、その後、はかばかしくない状態が続いてきている。一方、実質GDPはデフレーターの低下もあって、リーマン・ショック後を除き、緩やかながら基調的には増加を続けてきている。
企業、家計、財政などは名目で動いている面がある。企業は、物理的な生産量などを見ることもあるが、決算は名目値である。決算が改善しなければ回復感もなかろう。家計も、実質賃金や実質支出などを実際に計算することはなく、現実に稼得し支出する金額で考えるのが基本であろう。財政、特に税収は名目値に左右される。各部門にとって重要なのは、実質GDPよりもむしろ名目GDPかもしれない。
インフレの場合には、名目GDPをまず見て、次にデフレーターによりインフレ分を差し引いた実勢の実質GDPはこれだけにすぎない、といった見方で良いのであろう。しかし、デフレの場合には、名目GDPにマイナスのデフレーター分が逆に上乗せされて、実はデフレのおかげで実質GDPはこれだけ大きくなりますと言われても、ピンとこないのではなかろうか。
1998年以来続いているデフレの問題は、実は、名目GDPの動きがはかばかしくないことに由来する「デフレ感」による部分もあるのかもしれない。名目GDPが増加基調に転ずればこうした「デフレ感」は払拭される可能性がある。
日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を導入したところであるが、確かに物価が上昇すれば名目GDPの改善に繋がる可能性はある。しかし、物価の上昇は必ずしも国民には受け入れられないものではある。物価が必ずしも上昇しなくても、より単価の高いモノ・サービスの購入や、そもそも購入金額全体の増加によって名目GDPの改善につながり「デフレ感」は解消されうる。名目GDPはCPIに比べコントローラビリティに問題があろうが、その改善が究極的には望ましいのかもしれない。
最悪の事態のひとつは、インフレ率がプラスになる一方で、実質GDPがそれ以上の率で減少し、結果として名目GDPも減少することであろう。実質GDPの変化率がマイナスであっても、それ以上のインフレによって、名目GDPが増加すれば、程度の問題はあるものの、まだましなのかもしれない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
「九州・沖縄」「北海道」など5地域で悪化~円高などの影響で消費の勢いが弱まる
2025年7月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年07月14日
-
2025年5月機械受注
民需(船電除く)は小幅に減少したが、コンセンサスに近い結果
2025年07月14日
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の構想と日本企業への示唆
影響、依存、リスクと機会(IDROs)をいかに捉え、対処するか
2025年07月14日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
-
中央値で見ても、やはり若者が貧しくなってはいない
~20代男女の実質可処分所得の推移・中央値版
2025年07月14日