日本の将来と相撲
2013年05月09日
安倍首相の再登場のせいばかりではないだろうが国民の間であらためて経済に関する興味・関心が高まっていると思う。
経済を考える上でキーワードとして登場した言葉の代表的なものに「格差」と「グローバル化」があった。筆者が「格差」と「グローバル化」と言われて、思いついたのは日本の国技とも言われている「相撲」についてである。
「格差」にはさまざまな格差があるが、都市部と地方の格差を例に挙げたい。力士はおしなべて失業率が高めで若い人たちの働く場所が十分に確保しにくい地方の出身者、とりわけ北海道や東北の出身者が多いというイメージを持っていた。しかし、財団法人日本相撲協会の公式サイトに掲載されている出身地別の力士リストからデータを作成したところ、力士の出身地の分布は、実際には各都道府県の人口構成比にほぼリンクしていることがわかった(図表参照)。すなわち東京をはじめ大阪、愛知、福岡といった人口の多い都府県出身者が多くなっている。これは年6回行われる本場所のうち、東京以外で3度、興業が行われていること(親方の出身地や熱心な後援者の存在)も無関係ではないと思われるが、石川県を除き人口の少ない北陸が少ない一方で広島や兵庫出身の力士が少なくない点をみると、中高年の人が抱く一般的なイメージと異なり出身地は偏っていない。
また、地域別で見ると、関東に続いて実は九州・沖縄出身の力士が多い。ただし、過去からの横綱や大関といった番付上位者を輩出した出身地となると、やはり北の優勢は揺らがない。
もう一つ「グローバル化」について言えば、外国人力士の存在である。現在、外国人力士は1部屋に1人と決められているため、総力士数に占める割合は上昇してきたとはいえ7~8%で頭打ちになってきている。ただし、志望動機の強さか、個々の才能、格闘技の経験を含めたスカウト力によるものかは不明だが、幕内・十両といった番付上位陣に占める外国人比率は約30%と高い。ちなみに現役引退後、親方になるには日本国籍が必要とされている。一定のルールの下で海外から労働者としては参加できるがマネジメントには比較的参加しにくい状況は、日本のビジネスや日本への直接投資の状況と重なって見えて難しい問題である。いずれにせよ、俗に言われるハングリーさなど、番付上位者における出身地の偏りを生み出す何か別の力の存在を考えずにはいられない。
ところで、こうしたことを調べていくうちに気になるデータを見つけた。総力士数の減少である。例えば平成11年には約790名であったが、現在では約600名(※1)と、この15年で200名弱減少している。理由は引退力士数に比較して新弟子の数が減少しているということのようだ。それが直接、すぐに相撲の魅力にどれだけ影響を及ぼしているかはわからない。しかし厳しい競争の下で切磋琢磨する状況に変化が出ていることは間違いがないだろう。先日も日本の人口が大きく減少しているとの統計が発表された。ファン層の拡大など地道に「内需」に働きかけるのか、極めて日本的なコンテンツとしての「国際競争力」にかけるのか、さまざまな努力が行われていくことになると思われるが、このところ少し日本が元気を取り戻してきている中で相撲の将来が気になるところである。

(※1)力士数は入門と引退によって変動するが、卒業シーズンと重なる3月の春場所(大阪)の新弟子検査で多く登録し、それが番付に反映されるため5月に総力士数が増加する傾向がある。平成25年5月現在、635名(日本相撲協会)。
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