2%を2年、2年で2倍、2倍!
2013年04月30日
先日、実家の荷物を整理していたら一冊の雑誌が出てきた(※1)。「金融政策でデフレを克服できるか」など、昨日今日発売された書籍の表紙を飾っていたとしても違和感のないタイトルの座談会などが掲載されていたが、雑誌自体は12年前のものである。また、雑誌内でコメントされている先生の多くは今なお第一線で活躍されている。ちなみに、同雑誌の責任編集は岩田規久男・日銀副総裁(当時は学習院大学教授)が担当されていた。だが、デフレが克服されていない現状を鑑みると、10年以上にわたって、適切な金融政策が実施されてこなかったか、あるいはそもそも金融政策だけでは無理であることを示唆しているかもしれない。実際、座談会を終えた岩田日銀副総裁は「次に求められるのは、日本経済再生のためのパッケージづくりと、それを断固実行する政府のリーダシップであろう」と後記を締め括られていた。
日本の英知が結集して(時には海外のノーベル経済学賞受賞者も加わって)侃々諤々と長年議論されてきたにもかかわらず、明確な決着がついていないデフレ問題に、何か口を挟む余地はもはやないと思われる。ただ、これ以上いたずらに時間をかけて座して死を待つよりは、一か八かの壮大な実験に賭けてみるのも一興、矢(何本かは不明)でも鉄砲でも持って来い、というのが率直な感想である。
人々のマインドに働きかける点では、一種の暗示・マインドコントロールという見方もある。そうであれば、オリンピック恒例の「気合だー!」の連呼や「元気ですかー、元気があれば何でもできる!」という元国会議員の叫びもこれに該当するだろう。また、“2年で2%”が実現すると信じるか信じないかというレベルになると、“次元の違う”考察が求められよう。長年持論を唱えられてきた岩田副総裁が、3月5日の衆議院議院運営委員会における所信聴取の質疑で、「それは当然、就任して最初からの二年でございますが、それを達成できないというのは、やはり責任が自分たちにあるというふうに思いますので、その責任のとり方、一番どれがいいのかはちょっとわかりませんけれども、やはり、最高の責任のとり方は、辞職するということだというふうに認識はしております」(※2)と答えられたのは不退転の覚悟を示しており、信じる者たちを奮い立たせたに違いない。
さて、100点満点と評価するエコノミストもいた日銀の金融政策決定会合(4月3~4日開催)の内容だが、発表文を改めてみると“2”という数字がやたらと強調されている。(マネタリーベース等を)2倍(平均残存期間を)2倍のフレーズを読んで、ふと、昔々、高見山関が出演していたCMを思い出したが、若手社員にその話をしたら、肝心の高見山関を知らないと言われてしまった。確認したら1984年に現役引退されており、30歳未満の世代が知らないのは無理からぬこと。同時に、自分が年取ったことを痛感した入社18年目の春である。
(※1)エコノミックス⑤「緊急特集 金融の論点」 2001年夏 東洋経済新報社
(※2)衆議院会議録 議院運営委員会 第183回第12号 平成25年3月5日(火曜日) より抜粋
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也