今「バブル」を心配すべきか

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2013年04月18日

  • リサーチ本部 常務執行役員 リサーチ本部副本部長 保志 泰

黒田新総裁率いる日銀が4月4日に打ち出した「異次元の政策」に市場は大きく反応した。TOPIXはその後1週間で1割以上上昇し、円ドル為替相場は100円/ドル寸前に、10年国債利回りは一時0.3%台に急低下(債券価格が急騰)した。市場参加者の期待に働きかけることには成功した形だが、大きな相場変動に対して、少なからず不安を覚える向きもあることは確かだ。

黒田総裁は、「ただちにバブルが生じるとは思っていない」としている。確かに、今すぐに心配する必要はないだろう。しかし、足もとの市場の動きは、あくまで、投機的な資金に対するメッセージ効果が発揮された段階であり、実態がついてこなければ、実態から乖離した価格形成が生じる可能性は否定できない。

しかし、「バブル」は事後になってみないとわからない、というのが定説である。なぜなら、市場における価格形成は、「将来期待」を織り込んだものであり、「期待」が実現するかどうかが判別できるまでには、一定の時間が必要になるからだ。また、「バブル」は短期間に膨らむわけではなく、時間をかけて徐々に膨らむものである。一旦緩和された金融政策は長期化しやすく、その間に、異常な価格形成を平常だと勘違いしてしまうケースもある。とくに投機家は、「期待」の変化に注目して行動するため、現在の価格水準が実態と乖離しているかどうかに関して無頓着になりやすい。

株式市場については、今のところ実態から大幅に乖離している、とは考えにくい。というのも、これまで長いこと割安に放置(いわばマイナスのバブル)されており、ここまでの上昇の幾分かは、その正常化が含まれていると判断されるためだ。気を付けておきたいのは、バブルが膨らむ際、得てして、現在の水準を正当化するような株価評価が行われやすいことだ。かつて、バブルが生成された局面では、「Qレシオ」(株価時価純資産倍率)や「PSR」(株価売上高倍率)、「PEG」(株価収益率対長期期待成長率)など、新たな考えを持ち込む指標が流行った。今のところその兆候は感じられないが、新たなものが使われるようになったら、要注意である。

一方で、債券市場についてはどうだろう。日銀は、長期ゾーンにまで金利低下効果を及ぼそうとしている。しかし、2年後のインフレ率2%を目標に掲げ、思惑通り景気も改善すれば、いずれかの段階で金利が急騰(債券価格が急落)する可能性がある。現在のわが国の金融システムの中で、国債がきわめて大きな存在になっていることを考えると、金融機関や機関投資家などに、様々な影響があるだろう。

異次元政策に異を唱えるつもりはない。ある程度副作用は許容しても、日本経済が成長軌道に戻ることを期待したい。しかし、金融政策だけにウエイトがかかった場合、どこかで異常な価格形成が行われるリスクは高まる。そうならないように、「規制改革」などの成長戦略を強力に推し進めて、投機家ではなく、企業の長期期待に働きかけることが肝心だ。

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保志 泰
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