中国における日本車販売、マイナス幅縮小にみる「中冷地熱」
2013年04月17日
中国自動車工業協会によると、2013年3月の中国における現地生産の日本車販売は前年同月比14.3%減だった。中国全体の乗用車販売が同13.3%増だったことを考えると、日中関係悪化の影響が色濃く表れている。
しかし、2012年10月の同59.4%減から順調にマイナス幅が縮小しているのも事実である(※1)。このままのペースでいけば秋口にも販売が増加に転ずる可能性があろう。想定を上回る改善の背景は、性能や安全性に対する日本車への高い評価に加え、「中冷地熱」(中央政府は冷たいが、地方政府は熱い)という構図の存在である。例えば、広東省広州市には日産、トヨタ、ホンダが進出しており、その従業員は合計2万6,000人程度で、3社ともに広東省の納税企業ランキングでトップ10に入る。部品の国内調達比率を高めていることも特徴である。地元の人々が、地元の工場で、主に地元で調達される部品を使って製造し、地元できちんと納税している企業が、地元政府にとって大切な存在でないはずがない。広東省政府は、産業構造の高度化や環境への配慮を目的に燃費の良い省エネカーの製造・販売を奨励しているが、これは実質的に「日本車」支援策といえる。
表は反日デモ発生前の2012年8月と2013年3月の乗用車の国別販売シェアの変化である。当初は日本車のシェアが低下し、ドイツや米国の車のシェアが拡大すると想定されていたが、結果は外国勢がシェアを落とした一方で、中国車のシェアが拡大している。「反日」をキーワードに民族意識が高まった結果、中国車を購入する人々が増えたのである。しかし、燃費、性能、安全性の面では外国メーカーに軍配が上がり、中国車の顧客忠誠度(※2)は相対的に低い。一部はいずれ日本車を始め外国メーカーの購入者として戻ってくる公算が大きいと考えられる。
日中関係悪化で最も大きな影響を受けた自動車についても回復への道筋が鮮明化しているといえよう。

(※1)2013年1月と2月の日本車販売は旧正月の時期のずれの影響で大きく変動したが、平均では17.2%減。
(※2)買い替えの際に、現在使っているメーカーの製品をまた購入したいとする人の割合
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経済調査部
経済調査部長 齋藤 尚登
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