注目されない輸出価格の上昇
2013年04月02日
昨年末以降の円安の進展にもかかわらず、輸出数量は依然緩やかな減少が続いている。しかし一方で、輸出金額は昨年10月を底に持ち直しており、それは取りも直さず、輸出価格が大幅に上昇しているためである。景気を考える上では実質ベースの動きが重視され、輸出価格への注目度はそれほど高くないが、足下の円建て輸出価格の動向を見てみると、急激な円安を背景に、実は過去最高水準まで上昇している。円安によって国内における相対的な生産コストが割安になっているにもかかわらず、契約通貨建て輸出価格は引き下げられていない。
円安による経済への影響を考える際には、契約通貨建て輸出価格引き下げによる競争力の強化によって、輸出数量を押し上げるという効果が注目されることが多いように思われる。しかし、円安が進む中で、契約通貨建て輸出価格を維持するメリットを享受することで、輸出競争力ではなく輸出収益力を高めるというのも輸出関連企業にとっての選択肢となりうる。
こうした観点に立つと、足下では輸出数量の回復は見られていないものの、輸出価格上昇による輸出金額の増加が、景気に好影響を与えているといえる。輸出金額の増加は、輸出関連企業にとっては売上の増加に他ならず、利益を押し上げる。昨年末以降、円安と同時に進んだ株高は、こうした円建て価格上昇による利益の増加を織り込んだものであるとみられるし、政府による賃上げ要請に応える企業が増えているのも、利益の増加があってこそであろう。むしろ、極めて議論を単純化して考えると、価格上昇によってのみ利益が増加し、数量ベースの生産水準が変化しないのであれば、企業が追加的に労働者を雇う必要性は低く、一人あたり賃金への上昇圧力が高まりやすいのではないか。
ただし、こうした状況がこの先も継続していく可能性は低いとみられる。長い目でみれば、価格を上昇させて収益を稼ぐよりも、数量ベースでのシェアの拡大を図る方が企業にとってはメリットが大きいとみられるからである。今後、企業は採算が取れる範囲内で、輸出価格を引き下げていく可能性が高いだろう。景気の先行きを考える上で、輸出数量だけではなく、輸出価格の動向にも注目していく必要がある。
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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