地方が活性化しないことへの一考察
2013年03月06日
地方が活性化しないのはなぜか。それは公共事業などに依存して、自律的な好循環が生まれにくい経済構造を持つからである。自律的な好循環には、環境変化に応じた資源の再配分が必要だが、地方では資源の再配分に繋がる分業が都市ほど進んでおらず、所得・雇用の創出機会が限られている。ここでは足元の都市と地方の消費の差異を例にとり、この点について考えてみたい。使うのは総務省が公表する平成24年の家計消費の大都市および小都市B・町村(いずれも2人以上世帯)のデータである。
分析結果をまとめると、都市の家計は民間事業者が供給するサービスをその都度うまく利用している。賃貸マンション等の賃料や通勤・通学のための鉄道料金、都市ガス、そして外食といった支出が多い。特徴的なのは教育費や教養娯楽への支出であり、都市では家計の経済厚生を高めるような選択的な支出が多い。教育費を別にすると、これらサービスは外部の民間事業者がストックを持ち、家計は自ら持たないという選択である。
一方、地方は住宅維持・修繕費や自動車関係費(ガソリン代や修繕費)、プロパンガスや灯油の購入費が多く、自宅で調理するので外食への支出が少ない。地縁や血縁といったコミュニティーの維持は冠婚葬祭時の助け合い等の共助的なサービスを生み出しており、そうしたコミュニティーを維持するための交際費も、地方が自前で多く負担している。また、地方では親から都市に住む子どもへの仕送り金も多くなる傾向がある。つまり、地方の家計は生活に必要なストックを自前で補い、また原材料を購入するなどしてサービスを自家生産しなければならない。そのため、地方では経済厚生に直接貢献しにくい基礎的な支出が多くなる。家計調査のデータでは、表で見られるように消費に占める基礎的支出の割合は地方が都市よりも6.3%ポイント多くなっている。
この違いはどこから生まれるのか。それは人口密度の差だ。様々なサービスを生み出すインフラが効率的に活用されるには一定程度の人口集積が必要となる。ICTの進歩で遠隔地でもビジネスは行いやすくなったが、それでもサービスは人が少ないと基本的には成り立ちにくい。もしサービス産業を活用すれば、自家生産で必要となる諸々のコストを引き下げて、家計は分業によるメリットを享受できる。
しかし、人口が分散する地方ではストック利用の効率性が悪く、民間事業者が供給しても費用対効果が良くない。このように地方ではサービス産業への分業が進みにくく、結果、公共事業や製造業頼みとなって、自律的な所得や雇用が創出されにくいのだ。
今後、成長戦略が首尾よく運んだとしても、地方に住む人々の経済厚生を高めるには、構造的に所得や雇用を増やして、基礎的支出を抑制する政策が必要だ。それにはコンパクトシティのような人口集積の促進やそれが難しい場合は徹底したICTの活用が考えられる。また、地方で多いガソリンや灯油への支出抑制は物流コストの面でも喫緊の課題だ。さらに、地方で比較優位の高い再生可能エネルギーの分野で雇用を創出し、そこで生み出される電気を都市向けに送るのも合理性がある。そのため、現在各電力管内で分かれている送電網の連系強化は、地方活性化という面でも必要だ。これらはほんの一例だが、地方におけるサービス産業の創出を促せば、家計の義務的支出を減らして、地方の雇用や所得にも繋がるかもしれない。

(出所)総務省「家計調査(平成24年)」より大和総研作成
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