世界のSRI(社会的責任投資)市場は13.6兆ドル、シェアは22%に。日本はここでも出遅れるのか?

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2013年02月07日

  • 河口 真理子

世界のSRI市場規模は13.6兆ドル(約1,220兆円)、運用会社などによって運用される全金融資産の22%に相当するというレポート“2012Global Sustainable Investment Review”(US SIF(米国社会的責任投資フォーラム)による)が先日公開された。

一般的に環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮するSRI投資は欧米のもので、アジアやアフリカには見るべきものが無いと思われがちである。確かに、13.6兆ドルのうち欧州市場8兆7,580億ドル(全体の65%)、米国市場3兆7,400億ドル(28%)、カナダ5,890億ドル(4%)で全体の97%を占めている。では残りは日本なのかというとそうではない。残り4,810億ドルの内訳をみると、なんとアフリカが2,290億ドル、これに豪州の1,780億ドルが続き、日本を除くアジアが640億ドル、日本は最下位の100億ドルにすぎない。世界市場に占める日本のシェアは0.1%にも満たないのである。

SRIがプロによって運用される資産残高に占めるシェアは、グローバルで22%とすでに『当たり前』になっている。しかし、地域ごとに大きなばらつきがある。地域のシェアは、欧州49%、アフリカ35.2%、カナダ20.2%、豪州・ニュージーランドが18%、米国11.2%、アジア(除く日本)が2.9%、日本0.2%である。単純に考えると、欧州では運用資産の半分にESG配慮(環境・社会・ガバナンス)が組み込まれているのに対し、日本では事実上ESGを考慮した運用は行われていないことになる。ただしこの数字は各地域で組織されている地域のSRI団体がそれぞれ集計したものを合体させたものなので、その定義や集計手法にはバラつきがあり、扱う際には多少の注意が必要である。

同レポートでは、SRIを7つの手法に分類している。このうち最も多いのがネガティブスクリーニングといわれる手法で、宗教や社会的価値観に基づき特定の事業や産業への投資を排除するというものである。これが8兆2,740億ドル、全体の6割を占めている。欧州と米国市場がこの手法を好んで使っており、ネガティブスクリーニングの6割が欧州で34%が米国である。欧州市場で最も一般的なのは武器関連を排除するもので全運用資金の半分に採用されているという。因みに日本ではネガティブスクリーニングを標榜した運用は皆無である。特定の事業を価値観で排除するという発想は日本人にはなじみにくいからだとされる。次に残高が多いインテグレーション(財務分析と環境や社会評価を総合して投資判断材料とする手法で6兆1,760億ドル)、議決権行使などの株主行動(4兆6,890億ドル)も、欧米が圧倒的に多い。とはいえアフリカやアジア地域でもある程度は採用されている。しかしこれらも日本市場には存在しない。

その他の手法は、欧州のみにある規範スクリーニング(3兆380億ドル)、業種ごとに環境・社会の取り組みが優れているものを選ぶベストインクラス(1兆130億ドル)、主に国際機関などが環境保全や途上国支援のために起債するウオーターボンドやワクチン債などのインパクトインベストメント(890億ドル)環境技術ファンドなどのテーマ型投資(830億ドル)である。日本で行われているのは、エコファンドなどのベストインクラスと、環境ビジネスなどのテーマ投資、インパクトインベストメントであるが、いずれも投資しているのは主として個人投資家である。

ここに、日本と海外とで運用残高に大きな差が付いた理由がある。海外で主要なSRIの担い手である年金基金が日本ではほとんどSRIを手掛けていないのである。欧米の年金基金、特に公的年金がクラスター爆弾製造企業を排除するなどのネガティブスクリーニングに積極的である。特定の価値観とはいえ生命をリスクにさらす武器関連企業に投資しないという判断は社会的に受け入れやすい。スウェーデンなど公的年金に対しクラスター爆弾製造企業への投資禁止を義務付けた国もある。さらにこの手法は全投資対象銘柄を調査するのではなく特定の業種を排除するだけなので簡便な手法でもある。公的年金基金などの公的な色彩の強い資金でこうした運用手法を採用すればSRIのコンセプトも国民に浸透されやすくなるだろう。オランダでは、国民からの強い支持で、年金基金がクラスター爆弾製造企業への投資を止めた経緯もある。

なおアジアでも年金基金の取り組みが広がり始めている。韓国の国民年金基金(総運用資産3060億ドル)は近年SRIに熱心に取り組み始め、2011年の残高は55億ドルと2009年から36%増となっている。意外に大きいアフリカ市場の牽引約は南アフリカ共和国である。年金基金に対しESG配慮を義務付け、グローバルにみても同国の国家公務員年金はSRIにもっとも熱心である。またヨハネスブルク証券取引所は財務とESG情報を統合した統合報告の提出を上場の要件とするなど、国家政策としてSRIに取り組んでいる。これに対し日本では、公的年金の一部でSRI運用に関心を持つ向きもでてきたが、まだ本格的な投資には至っていない。

ガラパゴスと自嘲し経済的にも社会的にも内向きをつづけていた間にSRIの分野でも世界と大きな差がつき、アジア市場の動きからも遅れはじめているようだ。しかし、アベノミクスによる経済活性化によって内向きでネガティブ志向だった日本市場、日本経済もようやく前向きになってきた。資本市場も日本市場の特殊性に固執するばかりでなく、投資の際に、いまやグローバル市場で当たり前になりつつあるESGにも配慮することは、これからの市場をさらに伸ばしてく上でも不可欠ではないか。

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