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政府にも求められる「次元が違う政策」

2013年01月23日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

1月21、22日に行われた金融政策決定会合において、日本銀行はCPI上昇率2%を目標とした「物価安定の目標」の導入と、2014年初めから期限を定めず毎月一定額の金融資産を買い入れる方式の導入を決めた。また政府と共同声明を発表し、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現を目指す方針を明らかにした。

日銀がインフレ・ターゲットを導入した背景には、①「大胆な金融緩和」を掲げた自民党の衆院選大勝により、日銀への政治的圧力が強まったこと、②海外投資家を中心にインフレ・ターゲット導入によるデフレ脱却期待の高まりから円安が急進し、市場を失望させた場合の円高リスクが高まったこと、③金融政策運営の柔軟性という点で、日銀が採用してきた「物価安定の目途」と「物価安定の目標」は変わらないうえ、表現を変えたことで分かりやすくなったこと、などがあったと考えられる。日銀が従来よりも政府との連携を強め、早期にインフレ目標を実現しようとする姿勢が経済主体や市場に浸透すれば、インフレ期待の醸成や円安といった効果が期待できるだろう。ただし、デフレ下でインフレ・ターゲットを導入した国は過去に例がないため、その効果については意見が分かれている。

政府や市場関係者は、日銀にインフレ・ターゲットの導入だけでなく大胆な金融緩和を求めている。もちろんデフレから脱却するためには積極的な金融緩和が欠かせない。しかし同時に認識しておかなければならないのは、過度に日銀へ依存する形の「次元が違う」金融政策は財政リスクを伴うということである。

例えば、無制限の資産購入の購入枠を拡大して金融緩和姿勢を強めていく中で、政府の財政規律が緩んだ場合は金利上昇リスクが高まる可能性がある。依然としてプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化の見通しがまったく立たない中で、仮に日銀が安定的かつ大規模な国債需要者になれば、安易な財政支出や社会保障給付抑制策の先送りに繋がる恐れがある。報道によれば、新政権は民主党政権の事業仕分けで廃止もしくは見直しを求めることになった事業を相次いで復活させつつある。また、本来2割に定められている70~74歳の医療費窓口負担を1割に据え置く特例措置を継続させる予定だという。こうした例にみられるような財政健全化に逆行する動きが加速すれば、金利上昇リスクは着実に高まるだろう。

本格的なデフレ脱却には、実体経済の面においても規制改革や貿易自由化が欠かせない。デフレは、ヒト・モノ・カネの流れの停滞という構造的な問題が強く影響していると思われるからだ。海外に比べて高い長期失業者割合、家計・企業の慢性的な貯蓄超過、資金需要の弱さなどはデフレと無関係ではないだろう。規制緩和や貿易自由化は常に賛否の分かれる問題であり、政治的な決断が難しい。だからこそ、新政権には「アメ」の分配だけでなく「ガマン」の分配も求められる。「次元が違う金融政策」だけに経済運営の責任を押し付けるような構図とならないよう、政府・日銀のバランスの取れた政策が必要である。

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