中国の住宅供給に好ましい変化

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2013年01月10日

中国の住宅市場の最大の問題点は、高所得者中心の投資・投機需要向けの高級物件の供給が多い一方で、中低所得者中心の実需向けの住宅供給が極端に少ないことであった。国家統計局によると、全国の住宅販売面積に占めるエコノミー住宅(日本の公団住宅のような物件)の割合は、2000年の22.7%から2010年には2.9%に低下するなど、居住用住宅の需要と供給には大きなミスマッチが存在していた。このため、2009年12月以降は、[1]投資・投機抑制による価格安定化(2011年以降は、既に住宅を2軒以上保有している場合、新規購入は不可とする購入制限令を主要都市で実施)、[2]実需向け住宅建設の促進、が実施され、それが現在に至るまで続いている。

保障性住宅は、実需向け住宅建設促進の切り札である。保障性住宅の供給増加の目的は、一生懸命働いても平均的な価格の商品住宅が買えないという、一般市民の不満を和らげ、中国共産党への支持をつなぎとめておくことである。保障性住宅には、世帯年収基準の低い順に、廉価賃貸住宅、エコノミー住宅(分譲)、価格と面積を制限する限価商品住宅(分譲)、公共賃貸住宅がある。この他、バラック地区の改造も保障性住宅建設に含まれるが、これは、劣悪な環境にある家屋を取り壊して、保障性住宅や中小型の商品住宅に造り替えていくことである。

保障性住宅の建設加速は、2008年11月に発動された4兆元の景気対策の重点項目とされたことで注目された。住宅・都市農村建設部によると各年の着工目標戸数は、2008年100万戸、2009年330万戸、2010年580万戸、2011年1,000万戸、2012年700万戸とされ、特に、2011年は着工ラッシュとなった。達成状況は概ね良好であり、2012年は10月までで722万戸と既に超過達成している。

保障性住宅の建設期間は2年半程度である。1年目に全体の2割、2年目に4割、3年目に4割が投資に計上されると仮定すると、2012年~2013年にかけて保障性住宅向け投資が大きく増加する計算となる。2012年1月~10月の保障性住宅の投資額は1兆800億元(※1)であり、同期間の住宅開発投資3兆9,704億元(※2)に占める割合は27.2%に達する。住宅開発投資は2011年の前年比30.2%増から2012年1月~9月には前年同期比10.5%増に減速したが、その後は伸びが上向き始めている(1月~11月は同11.9%増)。保障性住宅の建設増加が下支えとなっていよう。

投資・投機需要が抑制され、供給構造が保障性住宅や一般住宅中心となることは、住宅市場健全化の大きな一歩と評価できる。住宅開発投資が、短期的なブームから、中長期的な景気の下支え役になるには、供給構造の実需シフトが不可欠なためである。

(※1)住宅・都市農村建設部による
(※2)国家統計局による

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登