電力問題を考える

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2012年12月18日

  • 中野 充弘

電力は工場の機械を回す動力源として(産業用)、またビルの照明や空調、エレベータ管理などのエネルギー源として(業務用)、さらに家庭の電気製品や通信機器などの電源として(家庭用)、我々の生活に欠かせないインフラである。電力供給が止まれば、日常生活にたちどころに大きな影響が及ぶことは、昨年の東日本大震災時の経験からも記憶に新しいところだ。アジアなどの発展途上国で、「よく停電するため工場の運営が大変だ」などの話を聞くことがあるが、筆者の体験でも昭和30年代中頃までは夕方によく停電していたことを思い出す。電力がいつでも必要なだけ使えるということは、実はすばらしいことだ。

エネルギー政策を考える上では、[1]安定供給の確保、[2]経済効率性、[3]環境への適合、の三つの観点が重要とされるが、以上のように優先順位でいえば安定供給の確保が第一であると考えられる。

戦後の日本の電力業界は地域独占を認めることで、まず電力供給体制の強化を担ってきた。しかしながら日本経済が成熟するとともに、電力の供給不足が解消される一方で、電力使用の多様化や電力価格の割高さ(国際比較)などが指摘され、1995年以降順次電力市場の自由化が推し進められることとなった。

現在検討されている電力自由化案は、発電、送・配電、小売りの三段階に分け、発電と小売りは全面自由化をすすめ、送・配電は中立性を確保して一本化しようというものである。

例えば発電分野については、従来は経済効率性から大規模集中型であった。そのためエネルギー源としては効率性・価格・量・環境などの面から水力→石炭→石油→LNG・原子力と順次シフトしてきた。しかし2011年の福島第一原発事故以降は原子力発電に対する警戒感が強まっており、将来のエネルギー源をどのように考えるかが重要なテーマとなっている。

さらに大規模集中型発電の脆弱性についても指摘されるようになった。コンピュータが大規模マシンからPCへと主役が変わったように、発電部門も分散化を取り入れるよう検討されている。その動きが太陽光発電であり、企業などの自家発電に対する支援策であり、コージェネレーション推進の動きである。

将来の発電は、大型発電所が低廉な電力を安定供給するという役割を担うものの、一方で各地域、各工場、各職場、各家庭にて最低限の電力も独自に確保できるといった、多様性があり危機にも対応力のある姿になっていることが望ましい。

来年は電力料金の値上げの動きが相次ぐとみられるが、その一方では経済産業省の電力システム改革専門委員会の最終報告がまとまり、その内容を反映した電気事業法の改正案が次期通常国会に提出される見通しである。また電力需要をすばやく把握できるスマートメーターの導入も来年度から本格化し5年後には普及率8割程度を目指す計画である。

電力市場の変革の波から来年も目が離せない。

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