人口とGDP:「需要が供給を作り出す」

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2012年11月15日

  • 市川 正樹

人口の減少が、中長期的な経済成長に大きく影響するとの見方が一般的になってきている。そこで、人口伸び率と実質経済成長率を以下のようなグラフにして並べてみる。


両者は、ならしてみれば、長期的には類似の動きをしている。人口の長期的変化の周辺で、短期的な小さな経済の変動が繰り返されているようにも見える。人口は最近、減少局面に入っているため、今後は経済成長率も基調としてはマイナスに陥る可能性があると考えるのが自然であろう。


さて、人口は経済の供給側と需要側のどちらに強く影響しているのだろうか。さらには、現在低迷している経済にとって、需要と供給のどちらが不足しているのであろうか。供給側である潜在GDPの増加に貢献するのは、伝統的な理論では人口と資本、それと科学技術である。しかし、多数の非自発的失業者が存在し、特に就職したくても満足に就職できない若者が増えるなど、人口が供給への制約となっているとは考えにくい。さらには、資本も、マクロのISバランスを見ると企業(金融機関を除く)は1998年頃から資金余剰状態であり(平成12年基準国民経済計算)、金融機関は様々なサービスを提供するものの、企業の設備投資意欲は低迷している。資本も供給への制約となっているとは考えにくい。科学技術も、例えば、成長率が2%を切るようになった裏側でインターネットが急速な浸透を見せるなど、よく考えれば発展している。要するに需要が足りないと考えた方が自然である。「需要が供給を作り出す」。


ただし、潜在的な需要を、供給側が発掘できていないという面もあると思われる。特に高齢者の需要の発掘にあまり成功しているとは思えない。貧困にあえぐ高齢者も確かに多いが、かなりのお金や資産を保有する高齢者も多い。供給側による潜在的な需要の発掘もひとつの課題であろう。


以上のような見方に対しては、一人当たりの生産性を高めればよい、一人当たりGDPを目標にすればよい、人口ではなく生産年齢人口(比率)を使うべき、などといった意見もあろう。最初の点については、国内に関しては、内需の拡大が伴わない限りパイの奪い合いになるだけと思われるが、他の論点も含め、別の機会に論じたい。


一方、我が国全体としては、人口の減少はまだ目立たないが、地方、とりわけ田舎の小さな集落などでは、既に人口が大幅に減少し続け、高齢者ばかりとなっているところも多い。このまま進んだ場合の、将来の日本を暗示するかのようである。


こうした地域では、もはや、インフラ整備、企業誘致といったこれまでのようなGDP志向的な政策では、将来の発展はもはやどうにもならない。そこで、GDPを補完・代替する「幸福度」などに熱心に取り組む自治体も出てきている。その際、OECDが、「あなたの幸せ度は何点ですか」を調べる主観的幸福度を、あくまで幅広い社会的進歩の計測のごく一部としているように、必ずしも幸福度にこだわる必要はない。住民参加の下、幅広い分野で様々な意見を集約しながら、将来の発展を目指せばよい。この面での成功例もいずれ出てくるかもしれない。


人口伸び率と実質経済成長率人口伸び率と実質経済成長率

(注1) 人口は、1956年~2000年は「長期時系列データ 我が国の推計人口(大正9年~平成12年)」、2001年~2010年は 「長期時系列データ(平成12年~22年)」、 2011年は「人口推計(平成23年10月1日現在)」(平成24年4月17日公表)。 いずれも各年の10月1日時点の人口。
(注2)実質経済成長率は、1980年度までは平成2年基準、1994年度までは平成12年基準、それ以降は平成17年基準。
(出所)総務省ウェブサイト、内閣府「国民経済計算」より大和総研作成。

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