渋谷を歩行者天国に

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2012年11月06日

  • 奥谷 貴彦

日本のiPS細胞の研究が注目されている。再生医療などの分野において事業創造が活発になれば、日本経済の活性化にもつながるだろう。これまでにも日本では事業創造を促進するために、様々な施策が講じられてきた。ベンチャー企業に対するリスクマネーの供給の促進や大学発ベンチャー起業の促進などである。しかしながら、事業創造を促進する施策において、議論が活発化していないのが都市計画に関する議論である。


都市計画の研究においては、都市の「密度」が高まれば事業創造を促進し、経済活動が活発化するとされている。経済の発展した地域には高層ビルが立ち並び、一方で発展途上の地域には低層の建物が多い印象を持つ。高層ビルが立ち並ぶ「密度」が高い都市は事業創造を促進しているのだろうか?都市の「密度」には人と人の物理的な距離だけではなく、心理的な距離も考慮しなければならない。米国の研究によれば、特に歩道や公共の場における様々な人との意図しない出会いが都市の「密度」を高めるとする(※1)。道端での知らない人とのふれあいが都市の「密度」を高めるようである。では、人との心理的な距離を縮めることと、事業創造に関連性はあるのだろうか?事業創造の過程においては、様々な分野の人や知識が融合し、化学反応がおこるとされる。人と人のコミュニケーションが活発化すれば、事業のアイデアが生まれるきっかけが増加する可能性があるだろう。


都市計画が成功している都市の1つがニューヨーク市マンハッタンである。高層ビルが立ち並ぶオフィス街のイメージが強いニューヨーク市マンハッタンであるが、市当局は20世紀前半の古い建築物を活かした都市計画を立案している。市担当者はマンハッタンの歩行者エリアに歩行者の動線に配慮してイスを置くなどして、歩行者を中心とした活気のある都市の創出を目指しているという。歩行者エリアでは週末に様々なイベントが催されることもある。このように都市計画が町に活気をもたらしているのか、ニューヨークでは近年インターネット関連のベンチャー起業が急速に活性化している。西(米国西海岸)のシリコンバレー(谷)と並び、東のシリコンアレー(路地)とも呼ばれている。これらのベンチャー企業はマンハッタンの中でも、オフィス街よりも賃料が安い下町の古い低層ビルにオフィスを構えている。周辺にはバーやライブハウス、クラブなどが集まり、様々な人と交流することができる。一方、日本においても東京の渋谷ではニューヨークの下町と似た環境があるせいか、インターネット関連のベンチャー企業の集積があり、事業創造が活性化している。

このような成功例を参考に、事業創造を活性化する都市計画を検討してはどうだろうか?日本ではこれまでも歩行者天国によって、歩行者を中心とした街の活性化に成功した事例がある。歩行者天国を積極的に導入することで、都市の「密度」が高まり、事業のアイデアが生まれるきっかけが増加するかもしれない。例えば、週末の渋谷に歩行者天国を導入すれば更に魅力的で、「密度」が高い町になるのではないだろうか?

(※1)Peter Gordon他,"Does density matter?"

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