ミャンマーへの進出促進に向けて進む投資環境の整備

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2012年11月05日

  • 矢幡 静歌

ミャンマーへの外国投資が急増する中、ミャンマー連邦議会が海外の投資家や産業界からの要望にも配慮して審議していた、自国経済の発展を目的とする外国投資法(1988年制定)の改正法(以下、「改正法」という)が今月2日、成立した。


ミャンマーでは現在、外国投資法の改正とともに国有企業の改革が進んでいる。1989年に国有企業法が施行され、航空・鉄道や郵便・通信をはじめとする12の業種(※1) が国有事業の対象となった。原則として同業種への民間企業の投資は制限されてきた。また、政府は1995年に民営化委員会を設置し、経済発展を目的とした国有企業の民営化を推進してきた。ミャンマー政府統計Statistical Yearbook 2010によると、2009年以降から国有工業企業の民営化が大きく加速しており、国有工業企業数(民間企業の参入が可能な事業に携わる国有企業を含む)は、2008年の917から2009年は740に、そして2010年は652にそれぞれ減少している。なかでも特に、輸送機器や食料品に関する企業数の減少が著しい。更に、今まで民間企業の投資が制限されていた通信事業を民営化する(外国投資も対象とする)動きもある(※2)


ミャンマーではこのように資本市場が立ち上がる流れが加速している。しかし、冒頭の改正法成立には曲折があった。改正法案は外資にとって非常に有利なものであるとして、国内産業の保護の観点から改正法成立に慎重な意見や反対する意見が多くあった。そのため、改正案は当初案とは異なり、規制を強化する案を盛り込んだ内容に修正され、本年9月上旬に連邦議会で可決されるに至った。一方、テイン・セイン大統領は規制を緩和する方向で内容を修正する必要があるとして改正案に署名せず、再審議を求めて連邦議会に差し戻した。これを受け、本法案は10月中旬より再審議され、今月2日になって議会でようやく可決され、大統領が署名する運びとなったのである。曲折を経た上での可決という意義はある。


現状、民営化が活発に行われていることを考慮すると、今後も国有企業の民営化が更に進むと考えられる。民営化の進展に合わせて、従来規制が厳しかった事業分野でも、外資企業の進出が促進されると考えられる。ただ、現状までの民営化については、基本的な仕組みはあるものの詳細な基準が明らかでない事項も多い、あるいは多くの国の事業や資産が軍と結びついた事業化に売却され民営化のプロセスが不透明だ、などという指摘がある(※3)。また、改正法においても外資の出資比率については範囲を明示しておらず、個別に審議される見通しとなった。こうした状況下にあっては、確かな情報の収集が一層重要となる。外資がミャンマー進出を成功させるためには、積極的に情報収集に努め、想定される課題やリスクを十分に考慮し、慎重に検討を重ねることが肝要である。


海外からの投資熱が高まる中、ミャンマーの投資環境は改善に向かう可能性が高い。今後、外国投資をより一層促進して経済発展を実現させるために、改正法の着実な施行、民営化プロセスの透明性の向上や基準の積極的な開示など、投資環境の整備が進むことが期待される。


(※1)国が独占権を持つ残りの10業種は次のとおり:チーク材の伐採・販売、森林の植林・管理、石油・天然ガスの採掘・生産・販売、真珠・翡翠・その他宝石の採掘・輸出、政府調査用漁場における魚・海老の養殖、銀行・保険、テレビ・ラジオの放送、金属の採掘・輸出、発電(法律上民間業者に認められているものを除く)、および治安・国防に関連する製品の生産。
(※2)Htoo Aung, “Telecoms Industry To Be Privatised, Says MPT,” Myanmar Times, September 3, 2012.
(※3)“Myanmar’s Ruling Junta Is Selling State’s Assets,” The New York Times, March 7, 2010.

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