金融政策にできることと副作用—実質金利マイナスの効果をもたらす政策も必要

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2012年10月25日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
日銀は10月22日に公表した地域経済報告で、東日本大震災からの復興需要が底堅い東北を除く他の8地域の景気判断を下方修正した。これまでにも、さらなる金融緩和政策の発動が期待されてきたが、このことによって日銀は直ちに緩和政策を実施する決断を行うと予想されるようになった。


日銀はこれまでもゼロ金利のもと、「資産買入等の基金」という器を用意して、市中からの証券買入を行い、量的緩和政策を行ってきた。ETFやREITの買入も積極的に行っていた期間もあったが、最近は基金の国債買入枠の増額や買入対象の期間の長期化、買入ペースの増額に重点をおいてきた。市中への十分な流動性供給という点では、国債の買入は確かに有効ではあるが、それは金融機関が流動性問題に直面し、金融市場における決済が危機にさらされたときに必要な対策である。現在の日本経済の問題は、前向きな投資活動の鈍化である。その背景には、リスクマネーの不足という問題がある。民間経済主体がリスクマネーを十分に供給できない状態をどのように補完するかが肝要なのである。


その意味では、リスク資産の買入に重点をおいた金融緩和策を打ち出すことが再度求められているといえる。これまでのETFやREITの購入の効果はポジティブであったと市場にも受け止められており、市場心理の悪化と実体経済の悪化の悪循環を断つ意味合いは十分にあると思われる。そうした資産価格の下支えを行うことはデフレ傾向の克服にも通じるだろう。


ただし、これには副作用がある。リスク資産の買入拡大は、銀行としてのバランスシートを「リスクにさらす」ことと同義である。つまり、中央銀行であり発券銀行である日銀がみずからのバランスシートをリスクにさらすことで、円の価値の安定性をリスクにさらすことでインフレ=通貨価値の下落を導くということになってしまうからである。こうしたリスクを中央銀行にだけ負わせるというのは、バランスを欠いているかもしれないし、それこそ中央銀行への信認をリスクにさらすわけであり、際限なく拡大できるものではない。


では政府には何ができるであろうか。例えば、既存の制度を活用すると、日銀が買入れたETFなどを、さらに「銀行等保有株式取得機構」が買い取ることで、価格変動リスクを国も負担するということが考えられる。もうひとつの視点は、名目金利はマイナスにできない中で、デフレのもとで実質金利がマイナスになるのと同様の効果をもたらす政策である。欧米は一定のインフレが存在する中で超低金利にすることで実質金利をマイナスにしている。これが、一定程度、債務デフレの悪循環を緩和しているのである。しかし、日本は物価がなかなか上昇基調に変化していないため、実質金利を十分マイナスにもってくることが難しい。


直接実質金利をマイナスにできない場合、その代替策は何か?設備投資減税や住宅減税は、資金の借り手による投資需要を生む行為を促進するという点で、実質金利をマイナスにしていくのと同様な効果をもたらす。しかし、減税だけでは財政負担が拡大してしまう。財政負担の拡大を防ぐために増減税の組み合わせという発想も大事だろう。例えば、元本保証の金融資産を保有している場合に、デフレで実質金利が生じる。これに対して課税するという発想もあっていいのではないだろうか?財政負担中立だと経済効果がないということはない。いわば、アメとムチの発想でいけば、かならずしも財政負担を拡大させないで経済効果のある政策を構想することも可能である。

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