経済状況と治安、日本化
2012年10月16日
日本が辿ってきたことが、過去の資産を食い潰しながらの緩やかな衰退だとしても、比較的安全で平等であれば、それはそれで幸せだろう。比較的安全で平等であることと引き換えに、緩やかな衰退を受け入れる諦観を持つか否かが「日本化」なのかもしれない。であれば、こうした諦観からの脱却が「脱日本化」となる。
では、米国ではどうか。ニューヨークで街を歩いていると、しばしば道を尋ねられることがある。まだ教えようがないことが多いのだが、道を知らない相手に尋ねてしまったと向こうがわかると、意に介せず次の人に道を尋ねにいく。この辺は日本とは異なるようだ。わからないことがあれば人に聞き、買ってだめなら返品するなど (※1)、「チャレンジ」がそこかしこで行われる。「試しにやってみる」という文化だ。他人と同じである必要はないという多様性があり、多様性そのものがセーフティーネットになっている。そこに諦観はないように思われる。
だが、失業期間の長期化傾向や治安の悪化は懸念材料だろう。機会があるからこそのチャレンジだが、失業期間の長期化は、最終的に職探しを諦めざるを得なくなってしまう。また、財政均衡主義をとる米国の地方政府では、歳入の減少に応じて歳出を減らすことになる。公務員の人件費も削減対象となり、警官の数は減少し、稼働率も低下する。治安の悪化は民間の経済活動を低下させかねない。
長期的には米国経済の成長機会の逸失という側面も考えられる。米国における長期的な成長の源泉の一つとして、人口動態、とりわけ移民の存在が指摘されることがある。米国の治安悪化や就業機会の減少は移民の成功機会の減少であり、ひいては米国経済が持つ成長機会の減少につながりかねない。「日本化」を避ける観点からも、これらはコストをかけた政策発動の余地があると感じられる。企業も景気低迷期にはコスト削減が迫られるが、世界経済の連動性は強まっているとしても、必ずしもその動きは一致するわけではない。ビジネスチャンスを逃すことのないように、世界各地の事情を鑑みて、一律のコスト削減等をすべきではないだろう。
いずれにせよ、治安の悪化に対するコストカットだけは何とかしてもらいたい。
(※1)大和総研ニューヨークリサーチセンター 笠原 滝平著 コラム「ニューヨーク情報:どんぶり勘定」参照。
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