1校の格差はつづく

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2012年09月24日

  • 岡野 武志
今年も夏の甲子園では、多くの熱戦が繰り広げられ、全力で白球を追う高校球児の姿に、心を打たれたファンも多いことと思われる。しかし、夏の大会には、各都道府県の予選を勝ち抜いた学校だけが出場できるため、出場を巡る1校の格差が話題になるのも恒例になっている。今年も、予選出場校が最も少なかった鳥取県では25校でトーナメントが行われたのに対し、神奈川県では190校の中から1校だけが出場権を得られる熾烈な戦いとなった(※1)。夏の甲子園出場への1校の格差は7.6倍ということになる。

高校生にとって1校の格差が存在しているのは、夏の甲子園だけに限らない。多くの高校生が関わることになる大学進学においても、都道府県によって1校が持つ重みは大きく異なる。平成24年度学校基本調査(※2)によれば、大学数が最も多い東京都には138校の大学が設置されているのに対し、鳥取県、島根県、佐賀県に設置されている大学は、それぞれ2校のみとなっている。平成24年の高等学校卒業者千人あたりの大学設置数(以下、「大学設置数」)を計算すると、最も多い京都府では千人あたり1.49校が設置されているのに対し、最も少ない佐賀県の大学設置数は0.24校となっている。夏の甲子園には及ばないものの、大学進学における1校の格差は6倍を超えており、当事者にとっては大きな壁といえよう。

大学設置数の少ない県では、当然の結果として大学進学が難しくなっている可能性がある。そこで、大学設置数と大学進学率の関係をみてみると、大学設置数が最も多い京都府では、大学進学率が66.4%で全国最高となっているのに対し、大学設置数が最も少ない佐賀県では、大学進学率は41.4%にとどまっている。もっとも、東京都に隣接し、都内の大学へも通学可能な神奈川県では、大学設置数が比較的少なくても大学進学率が60%を超えており、近隣への通学可能性も進路決定の選択肢を広げる重要な要素とみられる。近県への通学が難しいと思われる沖縄県や北海道などでは、大学進学率は他県と比較して低い水準にある。大学進学率が低いために大学設置数が少なくなっている場合も考えられるが、地域で活躍する人材を育成するためには、選択可能な範囲を広げ、幅広い教育機会を提供していくことが重要であろう。

夏の甲子園と大学進学における1校の格差には、いくつかの共通点がみられる。共通点の一つ目は、いずれのケースも、制度利用者の努力では状況を改善できない点にある。どれほど必死に野球の練習や受験勉強に励んだとしても、1校の格差が縮まることはない。第二の共通点は、制度の決定者や運営者は、制度利用者になることがないため、制度利用者の痛みを感じることが難しいという点であろう。制度の決定者や運営者にとっては、このような格差に何か長所と思われる部分があるのだろうか。問題が以前から広く認識されていながら、なかなか改善が進まない点が、第三の共通点となっている。都市部と地方の格差では、わずかな数字の修正が議論されるだけで、本質的な解決が先送りされることも、しばしばみられる共通点の一つといえよう。

大学設置数と大学進学率(都道府県別)
<関連レポート>
伸び悩む大学進学率 —平成24年度学校基本調査から—」2012年9月11日ESGニュース

(※1) 日本高等学校野球連盟の加盟校数が多い東京都と北海道では、東西・南北に分かれて予選が行われ、1都道府県から2校が出場している。
(※2)「学校基本調査」文部科学省

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