経済の長期停滞、失業と自殺
2012年08月30日
内閣府の平成24年版「自殺対策白書」によれば、2009年以降、自殺者数は少しずつ減少しているが、それでも2011年は3万651人と、1998年以来、14年連続で3万人を超えた。毎年、大きな町の人口に匹敵する人々が、自ら命を絶っているという悲しい現実がある。
日本のこの問題に関する特徴は、1998年に急に自殺死亡率が跳ね上がり、以来、高止まっていること、かつ年齢階層別では50-59歳の中年男性の自殺死亡率が高いということである。近年、この年齢層の自殺死亡率が低下しつつあることは小さな救いだが、代って20-29歳の若者の自殺者数が就職難などの理由から増える傾向にある。
自殺の理由には様々なものがあるから、必ずしも経済的な理由が支配的とは言えないが、下の図のように失業率と自殺率の間には高い相関がある。ただ2002-07年の景気拡大期に失業率が大幅に低下する一方、自殺死亡率が高い水準に留まったのは、雇用は量的に増えたものの、中身が非正規雇用の増加へ質的に変化したことと関係があるのではないか。
ところで1998年に自殺死亡率が突然跳ね上がったのは何故かだが、自殺対策白書は、「平成10年の急増については、バブル崩壊による影響とする説が有力であるが、その後14年も変わらず高水準で自殺者数が推移していることについては定説はなく、今後の分析の課題となっている」と述べている。
1998年は前年にアジア通貨危機が発生し、この年は金融システム不安が重なって、厳しい不況を経験した。この頃を境に日本経済に起こった変化は、名目GDPが伸びなくなり、経済規模が縮小し始めたこと、もう一つはデフレが定着し始めたことである(1999年以降、2008年を除いて食品・エネルギーを除くコアインフレ率は毎年マイナス)。
これで1998年の自殺の急増を説明できるとは思わないが、経済的な理由による苦痛や困難が自殺死亡率を高めたことは疑い得ない。政府は自殺を減らすために様々な対策を行っており、その効果が期待されるところだが、やはりデフレを止め経済成長率を高めることが、もっとも効果的な自殺対策になるということではないか。
(出所)警察庁、総務省より大和総研作成
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