坂の上のデフレ

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2012年07月17日

  • 奥谷 貴彦
初夏、古都京都は祇園祭一色である。祇園祭とはシルクロードから輸入した織物や装飾をまとった山鉾の巡行が有名な、1000年以上の歴史を持つとされる夏祭りである。市内中心部では、それぞれの山鉾を保存する町が祭り囃子の演奏を夜な夜な練習している。初夏の夜は昼と打って変わって涼しく、祭り囃子の風雅な音色とよく合う。動く美術館とも言われ、豪華絢爛な祇園祭であるが、1000年の歴史を遡れば数々の戦争や災害を乗り越え、何度も市民の意思で市民が再興してきた。

現代の都、東京の政界では税と社会保障の一体改革が動き始めた。消費増税への第一歩を踏み出したことで、財政再建への期待が高まる。しかしながら、最も大切であるのは税率の引き上げよりも税収の根源となる所得の増加である。産業が新たな付加価値を創出し、中長期の名目成長率が上昇すれば、所得は増加しデフレが沈静化する可能性も高まる。自動車産業は産業の大きな一翼を担う。裾野産業や関連産業への波及効果も大きく、賃金や物価に対しての影響も無視できない。輸出産業がグローバルな競争に打ち勝ち、日本の国際競争力を高めていると称賛される一方、輸出産業の賃金抑制などのコスト削減努力が内需産業に伝搬し、デフレを助長しているとする見方もある。

自動車の価格を見ると、国内向けである軽自動車の価格は下落している。一方で自動車部品価格は上昇している。完成車メーカーは生産工程の改善や人件費抑制などの企業努力によって販売価格の下落と自動車部品価格の上昇を吸収しているのであろうか?裾野産業への影響を更に見てみたい。

自動車を構成する部品は約3万点とされるが、そのうち約4分の1をエンジンに関する部品が占め、生産を担う中小企業が裾野産業を構成している。多種多様な部品の高度なすり合わせを得意とする日本のものづくりを象徴する産業とも言えるだろう。エンジン部品についてその価格を見ると、大きく下落している。裾野産業への価格下落圧力が想起される。将来、スマートグリッドやスマートシティなどが本格的に導入され電気自動車が普及すると、エンジンはモーターに置き換わり、エンジンの部品は徐々に必要でなくなる。エンジン部品を製造する中小企業は生き残りをかけ、培ってきた技術や知識を応用して新しい産業に転業する必要に迫られるだろう。そこには希望もある。付加価値を生み出す新しい産業が創生された暁には、成長産業として日本をけん引するだろう。登るべき坂は私たちが選ぶ時代になった。

自動車産業の投入・産出物価指数
自動車産業の投入・産出物価指数
(出所)日本銀行「製造業部門別投入・産出物価指数(2005年基準)」

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