ネットワーク・サイエンスへの期待—SNSを基盤に生まれる多様なビジネスの可能性

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2012年07月12日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
インターネットを利用したソーシャルネットワークサービス(SNS)の発展は著しい。いわゆるSNSを実際に利用してみると、たいていの人が面白い現象に気付くようだ。それは、一言でいうと世界の小ささである。自分と関係性がまったく別だと思っていた人々が、想定していなかった間接的な関係でつながっているというようなことを経験することがある。例えば、小学校の同窓生とつながってみたら、親戚の伴侶と大学のサークルでの友人だった、などなど。それによって、思いもかけない昔の関係が復活したりすることもよくあるようだ。

間接的な関係に気付くということはソーシャルネットワークサービスならずとも、ひょんなことから知る場合も多いが、SNSにはそうした間接的な関係を接近的なものにする作用があるかもしれない。意外に世界は狭い、という話は本当かもしれない。SNSなど発達するはるか昔だが、どの程度世界は狭いのだろうかという問題意識で行われた実験(※1)があったそうである。1950年代にスタンレー・ミルグラムという心理学者が、米国内で任意の人に対して、知人から知人へ手紙を人づてで伝えていって何人目で届くかを実験した。この実験の結果、中継者の数は平均して5、6人であった、ということである。つまり米国中の人が平均して知人関係5、6人の距離の中に入っているということになる。ここから「世界は意外に狭い」という認識が生まれてきた。

SNSは、実際にはこの程度の「狭さ」である人間関係のネットワークにおける関係性を賦活するという役割を果たしてきているのだろう。もちろんポジティブな面ばかりではなくSNSによる人間関係作りが離婚を招くなどという話も多い。しかし、これはSNSが通常の友人関係といったものにとどまらない関係の広がりと深化の可能性を与えるものである証拠でもある。趣味の分野では多くの集団がSNSを媒介にして生まれ育っているし、昨年初の「アラブの春」でもSNSは大きな役割を果たしたとされている。

こうしたことから、SNSは、単純に人が集まる場、見に来る場として広告収入を得るというビジネスを超えて、大きく進化していく可能性を秘めていると思われる。これは運営者だけでなく、アプリケーション提供者や一般利用者にさえもアイデアしだいで様々な高度な利用可能性が生まれてきそうだ。特に活用が期待できるのはマッチングをするという分野だろう。そのためにはネットワーク・サイエンスの発展と応用が必要だと思われる。

米国で巨大金融機関の救済問題が焦点となったとき、大きすぎるということよりも複雑につながっていることが問題なのだとする指摘があった。つまり“Too Big To Fail”ではなく、“Too Connected To Fail”こそが、問題なのであるということである。しかし、金融機関のつながりの複雑性など、上記の世界の人間のつながりの狭さからみたら、ずっと小さい。世界の金融機関はせいぜい中継者2でつながっているのではないだろうか?ネットワーク・サイエンスの発展により、複雑な関係の網を上手に使って金融を含むマッチングのビジネスを進化させることに期待したい。

(※1)メラニー・ミッチェル「ガイドツアー 複雑系の世界」(紀伊國屋書店)p376

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