民意を踏まえた持続可能な震災まちづくりに向けて

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2012年07月10日

  • 三橋 忠
福島原発周辺を除く被災地自治体の多くで復興計画の策定が完了し、現在、これらの復興計画をベースに各地域で本格的な復興まちづくりが開始されている。

今回の震災では街全体、集落全体が壊滅的な被害を受けた地域が多い。そのため、復興に向けたまちづくりは住居の集団移転や街全体の盛土など、再開発ではなく1から新しい街を設計していく新規開発型のまちづくりが求められている地域も多い。新規開発型まちづくりは自由度が高く将来を見据えた新たな考え方を反映できる半面、まちづくりの選択肢が多く、将来像をどう設定するかにより整備の仕方も大きく異なってくる。また、多様な考え方を1つにまとめる意思決定が極めて重要になってくる。

まちづくりの過程で特に自治体が腐心しているのがまちづくりにおける住民との合意形成であり、その成否がまちづくりのスピードを大きく左右する要因となっている。

合意形成を円滑に進めるポイントとして、住民とのコミュニケーションを繰り返し丁寧に実施していくことが挙げられるが、これと併せて、住民にも分かりやすい説明と、それを評価しやすい尺度を提示していくことが極めて重要と考える。

特に、今回の被災地は人口減少や高齢化が進行している地域が多く、このような社会トレンドを事前に十分検討し、それらを踏まえた適正なまちづくりの規模や将来像、必要な機能等を設定することが持続性を高める点で重要な要素となってくる。

また、まちづくり計画は土地利用や施設配置のみに焦点が集まりやすいが、住民との合意形成においては、そこに住む人の生活がどのように営まれるのかといった住民生活に視点を置いた説明が不可欠であり、これによりまちづくりが自分自身と直結する身近な問題として捉えやすくなり、より主体的に協議に参画するモチベーションとなる。

さらに、まちづくりの方向性や全体像が望ましいものであるとしても、そのために住民がどの程度の金銭的負担を負うことになるのか、まちづくりの中でどのような役割分担が求められるのかなどは住民一人ひとりの現実的かつ重要な問題であり、これらの情報についても早い段階から提示していく必要がある。同時に、地元自治体、国、県等の負担や役割分担についても明らかにしていくことが重要であり、特にまちづくりに係る維持・管理・運営などのランニングコストは将来的に住民の負担となる可能性が高いのでこの点についても十分協議していく必要がある。

最後に検討しているまちづくりが進められた場合、どの程度の経済的効果が期待できるのかをできるだけ計量的に分析し住民に提示することが重要と考える。効果を定量的に分析することは、まちづくりの1つの評価尺度を住民に提示することになると同時に、政府等の支援策を受ける際の根拠資料としても有用となる。

以上のように、復興に向けたまちづくり計画をまとめることは大変複雑で難しい面もあるが、理想的なまちづくりを実現する千載一遇のチャンスでもあり、日本の今後のモデルとなるような魅力的なまちづくりを強く期待したい。

【復興に向けたまちづくりの検討フロー】
【復興に向けたまちづくりの検討フロー】

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