米国SEC、デリバティブ規制の段階的導入のロードマップを公表

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2012年07月05日

  • 吉川 満
米国SECは6月11日、デリバティブ市場を規制する新規則が発効するまでの手順を明らかにした政策文書を発表しました。初めにその政策文書を和訳して紹介しましょう。

「即時公表リリース2012-111、ワシントンD.C.発、2012年6月11日:米国SECは、本日デリバティブ市場を規制する新規則が発効する事になると考えている手順を明らかにした政策文書を発表しました。(略)
『政策文書は有価証券ベースのスワップ市場の様々な規制要求をどの様に実行しようとSECが考えているのかを、市場参加者と公衆の為に明らかにする‘ロードマップ’を提供しようとしているのです。』メアリー・シャピロSEC委員長はそう述べています。『我々はドッド・フランク法の要求する規則の採用・実行を継続して進めつつ、予想される手順に関するパブリック・コメントを楽しみにしています。』
加えて、政策文書は有価証券ベースのスワップ市場の参加者に対してSECがこれまでに与えてきた一時的救済措置失効のタイミングに関しても議論しています。これらの一時的救済措置は、これらの市場参加者に対する1933年証券法、1934年証券取引所法、1939年信託証書法の一定の規定の適用を免除するものなのです。これらの救済措置の多くは、同法第7章中の一定の最終規則が発効すれば、失効するものとされているのです。
SECは政策文書が連邦官報に公表されてから、60日間に亘って、パブリック・コメントを募集する予定です。」(※)

以上がSECの発表した政策文書です。デリバティブ市場を規制する新規則そのものはいまだ発表されていないのですが、6月11日には規則が発効するまでの手順が明らかにされたのです。ドッド・フランク法はいまだ部分的にしか施行されていないのですが、それは法律施行のために必要な細かい規則が未完成だからです。ボルカー・ルールも作成の最終段階に入っていることが既に公表されていますが、デリバティブ規則に関してはさらに一歩進んで新規則発効までの手順が明らかにされたわけです。デリバティブ規則の作成が遅くなった理由としては、米国の金融危機において金融システムに対して最も大きなダメージを与えた分野の一つであるCDS(クレジット・デフォールト・スワップ)やCDO(債務担保証券もしくはコラーテラライズド・デット・オブリゲーション)といった金融商品の規制と直接関係する問題なので、技術的にも難しい点が多かった事が考えられるものと思われます。このデリバティブ規則やボルカー・ルールが施行されて初めてオバマ大統領やガイトナー財務相、メアリー・シャピロSEC委員長といったそのスタッフたちの構想した金融制度が全面的に実現することになるわけです。1934年証券取引所法、およびドッド・フランク:ウォール街改革及び消費者保護に関する法律に基づいて採択された、有価証券ベースのスワップに対して適用される最終規則の順守期日はいまだ公表されていませんが、SECは自ら立案した草案を示して、一般聴衆の意見を確認しようとする手続に入ったわけです。順調にいけば今後数か月内にSECはデリバティブ規則の正式発表に踏み切るものと思われます。ただ繰り返しになりますが、ディリバティブ規制規則は2008年まで続いた米国の金融危機において、大きな役割を果たしてしまったCDSやCDO といった新金融商品とも密接に関連する規則だけに、これら金融新商品がリスクを十分には理解していない投資家に提供される可能性をも徹底的に塞ぐ事が望まれます。たとえばCDSでしたら、プロ同士が双方が自らもしくは顧客の利益を求めて取引するのでしたら原則として問題は無いと思われるのですが、アマチュアも購入しうる商品として設定されると、一般のアマチュアにはそのリスクが十分には理解されないことになりかねません。CDOでしたら土地取引を通じて、一般のアマチュアにも影響が広がる可能性があります。誰でもリスクがある事は分かっているのだから、そこまで念を押す必要はないと思うかもしれませんが、そうではないのです。

実は私も前回の米国の金融危機当時、投資の立場から米国の土地の証券化商品を徹底的に研究したことがあります。結果はどうだったかというと、どうしても過大なリスクを否定することができなかったのです。配布されている資料だけからはどうしても商品内容の詳細が理解できないものもありました。そこで私は、米国の新金融商品に関しては、リスクに十分注意するように投資家に訴える方向のレポートを書き続けました。もちろんドッド・フランク法も成立した今となっては事情は全く異なります。けれども米国当局に対しては、一般投資家、一般消費者でも安心して投資に参加できるような証券市場の育成・運営に努めるよう改めて強く願ってやまない次第です。

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