ソーラー企業を照らす新たな光は永遠か
2012年06月19日
世界的に太陽光発電市場が急拡大する陰で、各国のソーラー企業は苦境にあえいでいる。昨年後半以降、太陽電池メーカーの経営破綻が相次いでおり、今年の4月には、数年前に世界シェアでトップに立ったドイツの「Qセルズ」までもが破綻に追い詰められた。中国や台湾企業が低価格を武器に市場を席巻していることが背景とみられるが、根本的な問題は世界規模で過当競争に陥っていることであろう。海外でこうした逆風が吹き荒れる中、わが国では、7月1日に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、買取制度)」が開始される。
この買取制度は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力など)によって発電された電気を、一定の期間、「優遇された価格」で電気事業者が買い取ることを義務付けるもので、諸外国で複数の先行事例がある。これにより日本でも再生可能エネルギーの大幅な普及が期待されるため、国内のみならず海外からの関心も高まっている。私事ではあるが、かつて外国株のアナリストとして海外の太陽電池メーカーの調査に従事していた時期があり、株式市場を通して諸外国の飛躍的な成長を実際に目の当たりにしてきた。そこで、当時を思い出しながら、日本の買取制度について雑多な印象を少しだけ述べたいと思う。今回指摘したいことは、(1)太陽光発電市場の拡大にとても有効である、(2)太陽電池メーカーの長期的な育成という観点からは疑問符がつく、の2点である。
日本は、2000年代半ば頃まで長年にわたり、世界の太陽光発電市場をリードしてきた。しかし、ドイツが買取制度などの普及策を導入して急速に市場規模を拡大させた結果、日本は首位の座から転落したのである。現在予定されている太陽光発電の電力買取価格(案)が予想より高い水準に決まったことを踏まえると、日本の巻き返しは十分可能であると考えられる。しかし、上述したように、ドイツのエピローグに、かつての世界トップ企業の経営破綻が書き加えられたことを読み過ごしてはなるまい。Qセルズが世界のトップで隆盛を極めていた当時を知る市場関係者の立場から言えば、これは「平家物語」の「盛者必衰の理」そのものである。ドイツの事例については、買取制度によって「太陽電池バブル」と呼べるような状況が発生し、その当然の帰結として、太陽電池メーカーの長期的な育成に大失敗したという教訓が残された。
日本という名の由来である「お日様」から電気を生み出す太陽光発電は、非常に夢の膨らむ技術である。今回の買取制度は、ソーラー企業を照らす新たな光となり、太陽光発電市場の急速な拡大を強く後押しすることは間違いない。しかし、その光は永遠に続くことはなく、いずれ消え去ってしまうものである。そのため、制度導入で先行した諸外国の教訓を学ぶとともに、半世紀以上も前から太陽光発電の研究・開発に取り組んできた日本企業の技術力を活かし、官民力を合わせて、長い未来を照らすことができる太陽光発電市場の育成に努めるべきであろう。
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