人口減少と外国人労働者

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2012年06月05日

  • 長谷川 永遠子
日系ブラジル人が多く住む町、群馬県大泉町に行ってきた。同町には三洋電機の工場があり、リーマン・ショック前まで4万2,000人の町民のうち17%にあたる7,000人の外国人が暮らしていた。その7割は日系ブラジル人とその家族である。工場の閉鎖が決定され、彼らの職場が失われたため、現在の町の人口は4万1,000人まで減少している。中部地方のいくつかの自治体で行われた調査では、リーマン・ショック後の日系ブラジル人の失業率はどこも概ね40%台である。日本全体の失業率も一時5%を超えたものの、日系ブラジル人の失業率の高さはまさに桁違いだ。

外国人労働者の受入れは1980年代後半、バブル経済による人手不足緩和の一助として進められた。バブル崩壊後は、少子高齢化に伴う中長期的な労働人口維持の観点から語られるようになった。日本がアジア各国と経済連携協定を結ぶようになって以降は、介護福祉士や看護師など特定の職種における労働需給ギャップを解消する手段として期待されている。政府の基本方針は、国際競争力強化のため専門的・技術的分野の外国人労働者を積極的に受け入れるというものだ。しかし、現在、日本で働く外国人およそ69万人のうち、そうした労働者は2割にも満たない。残り8割が単純労働に従事しており、低賃金かつ安定を欠いた生活を余儀なくされている。

国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の生産年齢人口は今後30年で2,400万人近く減少する。仮にこの減少分を外国人労働者で補おうとすれば、毎年、80万人を受け入れ続ける計算になり、現在1%にすぎない外国人労働者の比率は3割まで上昇する。また、親族の呼び寄せ、定住化、いずれ外国人労働者自身も高齢になることを考えれば、人口減少に外国人労働者の受入れを絡めて語るのは慎重を期したい。まずは国内にいる若者、女性、高齢者の就業率を引上げるべく政策を総動員することが基本だろう。慶応義塾大学の後藤純一教授は女性の雇用拡大と外国人労働者の受入れが経済的厚生に与えるインパクトを分析し、前者が厚生を上昇させるのに対し、後者の効果は一概には言えず、おそらくマイナスになると論じている。

外国人労働者の受入れが拡大してきた背景には、人口減少ではなく、労働需給のミスマッチがある。農林漁業、看護・介護、建設・土木、ゴミ処理といったいわゆる3K業種は求人があっても日本人が集まらない。厳しい国際競争下にある自動車、電機の下請け部品工場、賃金が安く休日が定まらないコンビニエンスストア向け弁当工場等も同じだ。外国人労働者はこうした求人の受け皿になると同時に、派遣社員として景気の調整弁の役割を果たしている。

高齢化の進展でサービスへの需要が拡大している介護分野の労働需給を見てみよう。介護分野では現在およそ140万人が働いている。厚生労働省によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年には213~244万人の介護職員が必要となる。介護分野の有効求人倍率(=求人数/求職者数)は足元2倍近くになり、全職業ベース0.7倍前後と比べ、介護人材の不足感は強い。外国人労働者の受入れはこの分野の労働需給のミスマッチを緩和しようが、本来は需要に合った供給を確保するための雇用条件の改善、要介護者を減らす健康増進策、介護ロボットと人を組み合わせ介護者の負担を軽くするシステムの構築などを急ぐべきだ。

昨年日本を襲った未曾有の大震災によって日本人は不都合な情報にも向き合う心構えを得たように思う。人口減少や労働需給のミスマッチへの対策が十分な効果を上げられないでいるうちに、外国人労働者の受入れは進んでいる。日本が外国から受け入れるのは、労働力という一生産要素ではなく、血が通ったヒトである。外国人労働者も子どもや親と共に暮らしたいと思う。子どもの教育、親の介護に対する悩みは異国で暮らすだけに深刻だ。失業のリスクは日本人と比べて格段に高い。労働者自身もやがて高齢になる。教育、介護、生活保護、年金、各種公的サービスの負担はその分増える。より良い職を得、受入れ地域で円滑に暮らすためには、日本語や日本の文化・習慣への理解も必要だ。そうした統合のコストを国民が十分に負担することなしに、実態が先行している。外国人労働者をめぐる問題は日本が将来どのような国になっていきたいのかという問いを我々に投げかけている。

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