軽工業から脱却できないベトナム

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2012年05月31日

  • 佐藤 清一郎
アセアン主要国を見渡すと、タイ、マレーシア、インドネシアに比べてベトナムの経済発展への挑戦は時間がかかっている印象である。製造業における中心は未だに軽工業のようであり、電子部品、輸送機器などへのシフトがうまく進んでいない。何とかしないといけないが、まだ時間がかかりそうである。

ベトナムのマクロ面での数値をチェックすると他のアセアン主要国とは大きく異なる現象が2点見受けられる。一つは高インフレであり、もう一つは貿易収支赤字である。特に貿易収支赤字がもたらすマイナスの影響は深刻で、株価下落、通貨減価といった形で成長の足枷となっている。

2011年におけるベトナムの輸出を商品別で割合の高い方から見てみると、先ず、圧倒的に高い割合なのが衣料品である。割合で見ると、衣料品は輸出品全体の約14%程度を占めている。その後に続くのが、原油、電話機、靴、海産物等となっているが、いずれも割合は8%以下で、衣料品と比較するとかなり低い。衣料品が主な輸出品であるということはベトナムの貿易赤字を助長している一つの要因である。即ち、衣料品は極めて労働集約的な産業であり人件費の高低が重要な意味を持つ。ベトナムの人件費は、中国やタイに比べれば安いが、たとえば、ミャンマーやバングラデシュに比べれば高い。この点からすると、ベトナムで作られる衣料品は、国際市場において必ずしも輸出競争力があるとは言い難い面もある。

ベトナムより人件費の安い国との工業化の勝負に勝っていくためには、タイに見られるように電子機械や輸送機器など衣料品よりもより高度な技術が必要な輸出品を増加させなければいけない。しかし残念ながら、現状、そうした製品を主力の輸出品として生産できるほどの産業基盤が整っているとは言い難い。

産業育成には、海外からの直接投資を積極的に活用していくことで、ノウハウを蓄積していくことが求められる。産業基盤拡充には、もちろん自国の努力は重要だが、先行している先進国の技術を積極的に活用していくのが効率的である。ベトナムとして海外からの投資が行われやすい環境を整備していくことが必要である。今後の産業基盤育成で重点となる分野を選定して、その分野への海外からの投資が増加していくように、制度の透明性、手続きの迅速性、免税・減税措置、インフラ整備等を実施していくことが必要である。

幸いにして、最近、ホーチミン近郊の工業団地を中心に日本からの直接投資が増加してきている。資本蓄積、産業基盤整備を地道に行う中でベトナムがアセアンの生産ネットワークの一員として本格的に認知される国となることを期待したい。今後、ベトナムの産業構造が軽工業から脱却して望ましい方向となっているかは輸出品構成に変化があるかどうかを見ればわかるので、この点を引き続き注目していきたいものである。

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