グローバルな視点から見た日本企業に対するESG評価

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2012年05月30日

  • 伊藤 正晴
SRI(社会的責任投資)は、投資プロセスにESG(環境、社会、ガバナンス)要因を考慮する投資で、欧米では機関投資家を中心にSRI市場の規模が拡大している。日本においても金融資産を保有する側の動きとして、2010年12月に日本労働組合総連合会が「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」(※1)を発表した。また、実際に資産運用を行う側でも、2011年10月に「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」(事務局:環境省)(※2)が発表されるなど、日本でも機関投資家によるSRIの拡大につながる動きがある。

SRIにおいては、ESGに関する情報の入手やその情報の評価が不可欠となる。ESG情報にはCSR報告書などの企業が公表する情報や、調査機関が独自に調査した情報などがあるが、日本企業のESG情報の開示については、E(環境)は優れているがS(社会)やG(ガバナンス)が劣っているといわれている。そこで、ESGに関する投資判断ツールを提供する機関の一つであるFTSEのESGレーティング情報(※3)により、グローバルな視点から見た日本企業に対するESG評価を調べた。

FTSEのESGレーティングは、ESGに関して総合的に評価した総合評価、総合評価を構成する環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の3つのピラー、そして各ピラーのそれぞれを構成する2つのテーマという階層構造になっている。各階層の項目は、企業が属するセクターのリスク特性や業務を行う地域のリスクなどを考慮し、5を最上位とする0~5の間の得点でスコアリングされており、5がベストプラクティス、3がグッドプラクティスとなっている。

それぞれの項目について、世界全体(1988社)、日本(441社)、日本以外(1547社)の企業を対象にスコアの平均値を求めたところ、総合評価は世界全体が2.7であったのに対し日本企業の平均スコアは2.6で若干低いが、大きな差ではなかった。環境(E)については、世界全体では2.5であったが、日本は2.9、日本以外は2.3となっており、日本企業のスコアの高いことが目立つ。社会(S)は、世界全体では2.6、日本は2.5となっており、大きな差ではないが日本企業のスコアが少し低い。そして、ガバナンス(G)については、世界全体では3.2であるのに対し、日本は2.7となっており、日本企業のガバナンスに関するスコアが日本以外の企業に比べてかなり低い。

日本の社会(S)やガバナンス(G)に関するスコアが低いことの要因として、これら社会やガバナンスに関して公表された方針がないケースの多いことが指摘されている。日本では、役職員は同じ文化で育ち、わざわざ方針として文書化する必要はないという考えがあるのではないかと思われる。また、児童労働のように日本では禁止が当然で、特に方針は必要ないとする企業もあろう。しかし、日本企業における外国人労働者や企業の海外展開等を考えると、このように日本の感覚では当然とすることも、グローバルな視点ではきちんと文書化し、それを公表することが必要であり、FTSEのESGレーティングもそれを反映しているのではないだろうか。

日本企業に対するESG評価では、環境に関しては世界でもトップレベルの水準にある。今後は、社会やガバナンスに関しての取り組みや、その情報の公開が課題といえよう。

ESGレーティングの平均スコア
(出所)FTSEより大和総研作成


(※1)年金基金など、労働者が拠出した、または労働者のために拠出された資産であるワーカーズキャピタルの運用に関するガイドラインであり、財務的要素に加え、ESG要因も考慮することで公正で持続可能な社会形成に貢献すること目的としている。
(※2)この原則は前文で「持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指針として作成された。」とし、ESGを考慮した投資への取り組みが遅れていた日本においても、この原則がSRIに向けたガイダンスとして各社の創意工夫を促し、市場が拡大する契機となることが期待される。
(※3)2012年1月24日付、FTSE4Good ESG Ratings (Global)

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