空洞化問題について
2012年05月10日
円高、電力不足問題、TPPを含む自由貿易協定の実現の遅れなど、相変わらず日本の製造業を取り巻く環境は厳しい。こうした情勢の中で製造業が生産拠点を海外移転するのはごく自然な流れではある。実際に、上段のグラフのようにリーマンショックを経て、特に輸送機械産業のアジアでの生産拠点拡大が加速している。問題はこれがどの程度国内雇用に影響するかということにある。
下段のグラフは、輸送機械と電気機械産業の国内外での従業員数を見たものだが、輸送機械の海外雇用は増加の一途をたどっている。注目すべきは、輸送機械の国内雇用は一定の水準を保っているという点である。これは世界的な価格競争に巻き込まれ、国内雇用が減少し続けている電気機械の状況とは大きく異なる。電気機械の国内雇用は過去10年で約50万人減少している。
ここから言えることは、企業の海外移転が国内産業の空洞化と国内雇用の喪失に必ずしもつながるわけではないということである。もちろん海外に積極的に出るかどうかというよりも、海外でしっかり収益を上げる戦略の有無が重要になる。輸送機械は例外という意見もあるかもしれないが、製造業の国内立地条件がここまで不利となった現状では、むしろ生産拠点の海外移転の加速を低収益性からの脱却と雇用確保の両面からプラスに受けとめることも必要であろう。


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