藻類開発の成果は健康食品から新エネルギーの市場へと波及

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2012年04月17日

  • 水上 貴史
イラン情勢の緊迫化などに伴う原油価格の高騰で、ガソリン価格の値上がりが頻繁に報道されている。エネルギー資源の多くを海外に頼る日本にとっては何ともしがたいものであり、これまでは受身の姿勢をとらざるを得なかったといえる。しかし近年に入り、化石燃料を代替するバイオ燃料が登場して状況が変わってきた。エネルギー資源を生産できるという可能性が見え始めたのである。

現在、米国やブラジルなどを中心に、サトウキビ、とうもろこし、大豆などを原料とした穀物系バイオ燃料が生産されているが、これらは食料と競合するため、穀物価格の上昇を招く危険性を指摘する声が多い。そこで、これに替わり、食料と競合しない原料として、木くずやもみ殻などの非食用のものから生産するバイオ燃料や、藻類(いわゆる藻)から生産するバイオ燃料に期待が寄せられている。特に、後者の藻類バイオ燃料は、藻類から直接オイルが得られるので生産工程が少なくて済み、注目されている。

藻類バイオ燃料は、健康食品の原料としての利用も可能である。特に、“スピルリナ”、“ユーグレナ(ミドリムシ)”、“オーランチオキトリウム”といった藻類の品種は、燃料、食品のいずれの用途でも有望視されている。

例えば、健康サプリメントでも知られているスピルリナやユーグレナは、採算がまだ厳しいといわれる藻類バイオ燃料の世界でも、生産コストを低減できる品種として期待されている。具体的には、スピルリナやユーグレナは、他の微生物が生息しにくい環境下でも生息できることから、他の微生物の混入・繁殖対策に要するコストを大幅に抑えられる。特に、スピルリナに関しては、培養液中で凝集・沈降しやすく、通常必要な分離操作を省けるため、より一段と生産コストを抑えられる。

繁殖速度が極めて大きく、バイオ燃料の生産能力が高い藻類として近年話題となったオーランチオキトリウムからは、DHA(ドコサヘキサエン酸)やスクアレンというオイルを作り出すことができる。DHAは魚の脂肪に多く含まれる不飽和脂肪酸であるが、健康食品・飲料に多く用いられていることは、広く知られている。スクアレンは、深海鮫の肝油から抽出される健康食品として有名であり、近年、深海鮫が絶滅危惧種となってからその価値が高まっている。

時間軸の観点からは、グラム単価が高い健康食品の方が比較的実用化が早いと考えられるが、長期的には、大きな新エネルギー市場での利用に期待がかかる。特に、藻類バイオ燃料の場合、サトウキビ、とうもろこしなどから得られる穀物系バイオ燃料と異なって、気温マイナス数十度でも凍結しないので、上空の低温環境下で利用するジェット燃料に適している。ジェット燃料は市販のガソリンよりも付加価値が高いため、良好な採算性を期待できることが大きな開発推進力になっている。DIC、デンソー、IHIなどの企業が積極的に研究開発を行っており、JX日鉱日石エネルギー、日立プラントテクノロジー、全日本空輸等の各種企業と資本提携関係にある東大発ベンチャーのユーグレナ、藻類の新種発見が農林水産省「2011年農林水産研究成果10大トピックス」となった筑波大発ベンチャーの筑波バイオテック研究所も活躍が期待されている。

将来、藻類の大量培養技術や有効成分の抽出技術が確立したときに、燃料と食品の両方で、これらの技術が利用されていく可能性が高い。少資源国の日本が自らエネルギー資源を生産し、栄養価の高い食品も提供できる——そのような未来社会の構図を描けるとすれば、藻類の有効活用がもっと注目されてよい。しかしながら、国内では研究開発は盛んなものの、資金的な制約もあって、大型プラント環境下で実証実験できるプレイヤーがまだ少なく、大学や政府系研究機関などでの実験室レベルの実施が多い。先行する米国では、政府がこれまで技術開発に8,500万ドルもの支援を行っており、さらに今回、新たに商用規模生産に結び付くような生産プロセスの確立に向けて1,400万ドルの支援を行う予定でいる(2012年3月12日 日経バイオテク記事参照)。日本でも民間企業の参入を促すうえで、政府の積極的な開発支援が大きな鍵を握るといえよう。

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