確定拠出年金制度マッチング拠出の解禁が与える影響について

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2012年03月13日

  • 相馬 洋二
確定拠出年金制度(以下、DC制度)が施行され10年を迎えるが、当初よりの懸案であったマッチング拠出が解禁となる。2012年1月より企業型DC制度において事業主掛金に加えて、加入者掛金を拠出することが可能となった。加入者掛金等の取り扱いについてはDC規約による制約と、法令上の拠出額の限度はあるものの、マッチング拠出の解禁がDC制度の一層の普及に寄与することが期待される。

ところで、企業がマッチング拠出を導入した場合、従来の事業主掛金と新たに拠出される加入者掛金の拠出後における税制上の取扱いは同等である。両掛金はともにDC個人別口座に拠出され、自己責任の下で運用が行われ年金資産が形成される。よって、事業主掛金は給与より拠出される加入者掛金と何ら変わるものでなく、加入者から見ればマッチング拠出解禁がきっかけとなり、退職金の前払い給与として強く意識されることとなる。

一方、DC制度の普及とともに、確定給付企業年金制度(以下、DB制度)でも、人事考課や成果の反映、人件費管理の観点より、累積給付型の制度(ポイント制度やハイブリッド型といわれるキャッシュバランスプラン)を採用する企業が増えている。旧来の退職金制度とは異なり、退職金見合いの付与が毎期社員ごとに、ポイント(ポイント制度)や給与クレジット(キャッシュバランスプラン:DC制度の事業主掛金に相当)の形で行われ、前者は単純累計、後者は利息クレジット(運用益に相当)を付与し累計を行う仕組みとなっている。給与クレジットと利息クレジットは、企業型DC制度における拠出、運用と同様の仕組みであり、累積給付型制度におけるポイントや給与クレジットは退職金の前払いとしての給与の性格を持つこととなる。

また、退職給付会計ではすでに、退職給付債務(以下、PBO)を負債、退職給付費用を給与等の人件費とし認識している。企業では退職給付制度を運営することによるリスク(PBOや退職給付費用変動、年金資産運用)を削減するために、基金代行返上、キャッシュバランスプラン導入、DB制度からDC制度への移行等、様々な方法で対応する努力をおこなってきたのは周知の通りである。

このように、退職金制度を維持している企業において、累積給付型の企業型DB制度が普及し、退職給付会計による費用認識が定着しているなか、DC制度マッチング拠出が解禁された。このことは、退職給付が給与の一部分を累積、運用したものであることを、労使双方に強く意識させることとなろう。

DC制度マッチング拠出の解禁は、DC制度の普及に止まらず、退職金の前払いとしての給与を意識した退職給付制度の普及を促し、退職給付制度自体の意義、あり方に再考を促す契機となることも十分に考えられる。

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