「証券(筆者注:本稿ではデリバティブを含む)市場、ビジネス、投資家、及び雇用創出に対するボルカー・ルールの影響の調査に関する米国議会証言」・・・メアリー・シャピロSEC委員長

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2012年03月05日

  • 吉川 満
本年1月18日の米国証券取引委員会(SEC)のウェブサイトは、「証券(筆者注:本稿ではデリバティブを含む)市場、ビジネス、投資家、及び雇用創出に対すボルカー・ルールの影響の調査に関する米国議会証言」(SECホームページ)と題して、メアリー・シャピロSEC委員長の議会証言を紹介しています。この表題にもある通り、テーマは2010年に成立した包括的金融改革立法であるドッド・フランク法(ウォール街改革及び消費者保護に関する法律)の中でも、終盤になってから議論の焦点に浮上した為に、細かい規則制定作業が最も遅れている分野の一つである、ボルカー・ルールという事になっています。ドッド・フランク法は既に成立しているのですが、法律施行の為の細かい規則は未完成なのです。本日はこのスピーチに関して、ボルカー・ルールに関する規則制定の直近の流れを見てみましょう。


ドッド・フランク法が銀行に対して課している業務の禁止・制限

メアリー・シャピロ委員長のスピーチでは「共同提案は関連する四つの連邦機関~、連邦準備制度理事会(Board of Governors)、連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督官事務所(OCC)、証券取引委員会(委員会、もしくはSEC)、~の共同の広範な努力を反映しています。ドッド・フランク法が義務付けている規則を、禁止規定や制限規定に関して、法文と法の目的に即して定める事が目的です。この提案を定める為に 上記の各連邦機関及びCFTCから派遣されたスタッフが、財務省のリーダーシップの下で週毎のミーティングを開き、法律の効果的な実行に関連する問題を議論しアイデアを交換しました。」(SECホームページ)とあります。

共同提案を作成・提出したのは、連邦準備制度理事会(Board of Governors)、連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督官事務所(OCC)、証券取引委員会(委員会、もしくはSEC)という金融機関の規制・監督に特化した四つの金融規制監督機関に、財務省、商品先物取引委員会(CFTC)、を加えた六つの連邦機関なのです。SECも証券会社、投資顧問会社等だけではなく、銀行が証券業務を行う場合には、同じ様に銀行の規制・監督も行ないますから、前記の四つの金融規制監督機関は、銀行規制監督機関とも言えるのです。(但し銀行には後述のように、できない業務、制限された業務があり、それを遵守しなければならないことは言うまでもありませんが。)

議会証言ではさらに、ドッド・フランク法第619条は預金保険の付された預金金融機関にも、預金保険の付された預金金融機関を支配する会社、1978年国際銀行法第8条の目的においては銀行持株会社として扱われる会社、及び以上の会社の子会社に対しても適用されることが説明され、SECは自らが主たる規制機関の役割を務める銀行法人に関しては規則制定権を持っておりSEC登録のブローカー・ディーラー(証券会社)、投資顧問会社、証券ベ-スのスワップ・ディーラーに関しても規則制定権を持っていて、これらの金融機関は、提案された規則の中で集合的にまとめて『カバード・バンキング・エンティティ(対象となる銀行法人)』と定義していることが説明されました(※1)

同法は銀行に対して第一に自己売買「proprietary trading」を禁止しています(※2)。以下のその類型について説明していきましょう。


自己売買の禁止の例外の第一類型
マーケット・メイキング、引受活動、リスク緩和の為のヘッジ活動

(SECホームページ)
SECは、マーケット・メイキング、引受活動、リスク緩和の為のヘッジ活動の三つの取引類型(筆者注:以下、三業務と略。)について自己売買の禁止の例外を認めています(※3)。これら三業務は、(1)ドッド・フランク法が認めており、(2)SEC登録ディーラーが一般に従事しており、(3)証券市場の効果的な運営の為に欠く事ができない、という三つの条件を満たしているからです。

この三業務について例外が認められている理由を、それぞれについて簡単に眺めて見ましょう。

マ-ケット・メイキングとは、投資家が投資しやすい様に市場に流動性を供給する事です。この様に投資家の為を図れば、証券市場の育成に繋がるので、これは禁止する理由はないと言えましょう。引受活動もまさに市場育成の為に行なうのですから、投資家の為にこそなれ、禁止すべき理由はないものと考えられます。リスク緩和の為のヘッジ活動も、本来業務のリスク軽減等の為に行なうのですから、これも最終的には顧客にとってプラスになるものと考えられます。

この様に三業務はいずれも、投資家等にとってプラスと考えられるので、例外的に自己売買proprietary tradingが認められる訳です。この趣旨から考えて例え形式的には三業務のいずれかに該当しても、投資家等の不利益になる目的に用いられれば、例外は認められないものと考えられます。


自己売買の禁止の例外の第二類型
カバード・ファンドへの投資の禁止・制限、カバード・ファンドとの関係の禁止・制限

自己売買禁止(proprietary trading禁止)の趣旨から提案規則は、銀行がカバード・ファンド(ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンド、もしくは同様のファンド)に投資したり、カバード・ファンドと一定の関係を持つ事の例外も認めています。

銀行法人はカバード・ファンドの買い注文が顧客の取引に関連して執行される場合には、自らが顧客に対し投資顧問提案を行なっているカバード・ファンドの3%までを保有することができます。これは、銀行法人が顧客のニーズを満たす為に、取引を行うのであれば、3%という上限以内であれば、特に問題も生じないと考えられるからです。

いずれにしても、投資商品の販売に関する業務は、顧客の実態を十分に理解しておかないと、顧客に多額の損失を蒙らせてしまう可能性があります。SECを初めとする米国金融諸当局は2008年金融危機の経験を踏まえて、顧客の実態を十分に踏まえた上で法律を作成しようとしているのです。

最後になりますが、メアリー・シャピロSEC委員長は次の様にコメント期限の延長を確認して議会証言の結びとしています。

「我々は共同のボルカー提案の全面に亘る、確固たるパブリック・コメントに期待します。複雑な問題と、提起された質問に対するコメントを促進する為に、SECと金融規制諸当局は最近になって共同提案書に対するコメント期間を2012年2月13日までに延長しました。延長されたコメント期間は、コメンターに対して見直し・評価を行ない、提案に対するコメントを作成する追加の時間を与えるでしょう。また、我々がドッド・フランク法619条に即して実行する、CFTCの最近の提案を踏まえて調整する事を助けてくれる事でしょう。」(SECホームページ)

いずれにせよ延長された期限の2月13日も既に経過しました。数ヶ月以内に、ボルカー・ルールに関する正式な規則が発表されるでしょう。


(※1)「ドッド・フランク法第619条は預金保険の付された預金金融機関として定義された、如何なる銀行法人に対しても適用され、預金保険の付された預金金融機関を支配する会社、1978年国際銀行法第8条の目的においては銀行持株会社として扱われる会社、及び以上の会社の子会社に対しても適用されます。SECは自らが主たる規制機関の役割を務める銀行法人に関しては規則制定権を持っておりSEC登録のブローカー・ディーラー(証券会社)、投資顧問会社、証券ベ-スのスワップ・ディーラーに関しても規則制定権を持っています。これらSECが規則制定権を持っている金融機関は、提案された規則の中で集合的にまとめて『カバード・バンキング・エンティティ(対象となる銀行法人)』と定義されています。」
(※2)「同法は一般に自己売買『proprietary trading』という用語を、特定の金融資産を銀行法人のtrading accountを用いて自己の勘定で売買に従事する事を意味するものと定義しています。trading accountという概念は法律の枠組の基礎となる要素です。何故なら、銀行法人のtrading accountに含まれていないポジションは、proprietary trading禁止規定の対象外だからです。法律のtrading accountの定義には、銀行法人が近い将来売却する目的で(もしくは、そうでなければ、短期の値動きから利益を得る目的で再売却する意図で)特定の金融資産を取得したり、ポジションを持ったりする為に用いる、如何なるアカウントをも含みます。」
(※3)「提案された規則は全ての証券ディーラー、及び証券ベースのスワップ・ディーラーの口座を対象に広範に適用されるのですが、ドッド・フランク法に従い、この提案はこれらの銀行法人が我々の市場に対して流動性を提供し、発行者に対して継続的な資金調達活動を提供し、顧客に対しては仲介活動を提供するという、重要な金融サービスを提供する事ができる為に必要なニーズを認識しています。その結果、この提案は一般にproprietary tradingを禁止しているのですが、他の認可された活動に加え、マーケット・メイキング、引受活動、リスク緩和の為のヘッジ活動は認めています。(筆者注:これらの活動を自己売買《proprietary trading》の形で行なう事も認めているのです。)」

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