アジアの生産ネットワーク
2012年03月01日
アジア地域は世界の工場である。日本企業を含めアジアには生産ネットワークが張り巡らされている。企業は、資源を一番有利な条件で調達することを目標に、二国間貿易協定の締結等制度面での変更がある都度、最適な資源配分の見直し作業を進めてきている。結果、アジアにおける生産ネットワークは広がりを見せると同時に相当に複雑になってきている。
現在、工業品を製造する仕組みは以前に比べるとかなり違ってきている。以前のように二国間での垂直分業というような単純な図式ではなく、複数国にまたがった形で部品が調達され完成品が作られるケースが多くなっている。こうした背景には、(1)貿易・投資自由化に伴う先進国から新興国への技術移転の進展、(2)製品供給者増加で価格競争が激化して企業はあらゆる可能性を追求しないといけなくなったこと等があると思われる。
世界的な価格競争激化の中で、企業は、できるだけ低いコストで完成品を作るには、どのような体制で、どこの国で何を調達すればいいのかを常に考えている。中国とアセアン各国の経済関係が深まりを見せてきているのも、こうした動きの一環として理解できる。中国側が経済成長とともに賃金水準が上がって競争力が阻害されそうな状況に対して、コスト削減を目的に、賃金を含む物価が全般的に安いアセアンの国々に進出してきているのである。
中国とアセアン主要国との貿易関係を見ると、マレーシアやタイは、電子機器を中心に中国に輸出している。一方で、インドネシアやベトナムは資源を中心に中国に輸出している。これが今のところの基本的な貿易スタイルである。しかし、昨年、タイで洪水が発生して工業団地が浸水して日本企業も大きなダメージを受け電子機器等の生産が不能となった時期に限っては、このパターンとは違う動きが見られた。すなわち、中国が電子機器の輸入に関して、輸入先をタイからベトナムにシフトした形跡が見られるのである。タイで洪水が発生したタイミングあたりの中国とアセアン主要国との商品別貿易を見ると、当然のごとく中国のタイからの電子機器輸入は大きく減少しているのだが、一方で、ベトナムからの電子機器輸入が急激に増加している。この動きはベトナムのみに見られる現象で、マレーシア、インドネシア、フィリピンには見られない。この意味するところは何か。本来、中国はベトナムから石油等の資源を輸入して電子機器や機械などの輸入割合は低い構造なのであるが、有事の際には、電子機器生産を代替できるインフラができている可能性があるということである。タイからベトナムへの直接投資の動きは以前より伝えられているところではあるので、ベトナムでも電子機器を生産できるインフラが存在しても不思議ではない。ただ、分散するより集中している方が効率的との判断で、通常時は、タイからの輸入となっているのだろう。ただ、非常時のリスクヘッジとして、中国は、部品供給国として、タイのほかにベトナムも候補として持っているのだろう。ベトナムは、タイ経済圏の一部との認識でよさそうである。輸入代替の動きが、インドネシアやフィリピンには見られなかったことは、経済圏の違いを物語っていると言えるだろう。
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