親子上場を考察する

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2012年02月29日

  • 間所 健司
昨年夏、トヨタ自動車は、上場子会社である関東自動車工業を株式交換で完全子会社化することを公表し、年末には、その関東自動車工業とセントラル自動車、トヨタ自動車東北と統合に向けた基本契約を締結した。一方、2011年12月に日産自動車も、同じく上場子会社である愛知機械工業を年度内に株式交換により完全子会社化することを公表している。

多くの企業が経営環境の激化に伴い、グループ内のリソースを有効活用し、総合力を高めていくことが急務となってきている。そのためにも、完全子会社化で少数株主を排除することで、機動的なグループ経営を行い、事業戦略の迅速な実行を可能とすることが有効である。それによってグループ経営の強化が果たせられる。

しかしながら、子会社上場にまったくメリットがなかったわけではない。子会社側のメリットは、一般の上場メリットとそう変わらない。他方、親会社としては、(1)子会社株式を売却することで資金調達ができる、(2)子会社の価値を顕在化させることで企業価値向上への意識が高まる、(3)上場子会社を多数持つことでグループプレゼンスを向上させるなどのメリットがあった。

子会社の非上場化の流れが急なのは、上場のデメリットが顕在化してきていることにある。たとえば、(1)少数株主との利益相反や少数株主への利益の流出、(2)親会社としてのガバナンス力の低下、(3)グループとしての意思決定の機動力の低下などがあげられる。子会社側においてもJ-SOXなどの上場維持コストの増大や内部統制の整備という点もある。

完全子会社化によって、親子会社でシナジー効果による効率性の向上や上場維持コストを含めたグループ全体としてのコスト削減に取り組むことが可能となる。また、相互に事業を再構築することがグループ全体の効率化の点でも有益であるということも少なくはない。

親会社あるいは子会社として、小会社上場のメリットが薄れている環境下において、内部統制の強化や会計基準の変更、適時開示の厳格化など、多額のコストをかけてまで上場を維持する意味があるのかという点を、今一度グループの経営戦略の視点から問いかけてみる必要が出てこよう。

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