家計貯蓄率低下の対応には「働き方」の再考を

RSS

2012年02月27日

  • 森 祐司
貯蓄の動向に注意が向かってきている。財務省が発表した1月の貿易統計(速報値、2月20日発表)で、貿易収支が月ベースの赤字として過去最大を記録したことが話題となったが、このニュースをきっかけとして、国内の資金需給を表す貯蓄・投資バランスと貯蓄率に焦点があたってきたからである。

わが国の貯蓄率については、国民経済計算(SNA)と家計調査という2つの代表的な統計における貯蓄率が、水準も時系列的な推移も大きく異なっている。その差異の原因として、集計対象の世帯の違いや、SNAでは帰属家賃が含まれていることのほか、保険契約者による財産所得の捕捉の相違などの影響も大きいと言われてきた。それらSNAと家計調査の統計上のクセを調整していくと、結果的には両者の相違はそう大きくはないことも指摘されている(宇南山[2010]参照)。

その結果、やはり誤差補正後の貯蓄率も90年代以降に低下してきていることが確認できるが、最大の要因として無職世帯の貯蓄行動の変化があったことが指摘されている。高齢化により、高齢世帯が増加し、また無職世帯も増加し、貯蓄の取り崩しが大きくなってきていることが家計の貯蓄率低下に大きく影響していると見られている。

高齢化の進展により、世帯主が高齢者の世帯が増加するのは当然のことである。重要なのは低金利水準の長期化で利子収入も低く、さらに、公的年金給付水準の低下や支給開始年齢の引き上げのために、高齢世帯の貯蓄の取り崩しは今後も続く可能性が高いとみられることである。このようなことがあるために、世論調査では、「引退後の生活に不安を覚える」といった回答が増加しているのであろう。問題は高齢世帯の増加は致し方ないとしても、同時に無職世帯となっていくことなのである。高齢無職世帯の比率の増加が家計貯蓄率の低下に大きくマイナスに寄与する。家計貯蓄率の低下を緩和するためには、退職後の再雇用、あるいは雇用延長など、現在無職となっていく60歳代の雇用をもっと増加させることがやはり必要なのではないか。働きたい人は70歳程度まで働くことができれば、必要年金給付額の縮小と雇用期間の長期化による納税額の増加という、財政に二重のプラス効果があるほかに、上で指摘した将来的な不安が緩和され、国内需要の拡大にも寄与しよう。政府も「高齢社会対策大綱」で65歳以上を高齢者と見直すようにとの方針を出したが、政府だけでなく、企業や社会全体で「60歳代現役」や「働き方」を再考し、対応する行動を起こすときが来ているように考えられる。

参考文献
宇南山卓[2010]、『やさしい経済学—「真」の貯蓄率と統計のクセ』、独立行政法人経済産業研究所

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。