情報の信頼性と受け手の覚悟
2012年02月21日
しかし投資家保護や消費者保護のため、法定開示される情報の種類は増加しており、内容も専門家でないと理解するのが難しくなっている。例えば有価証券報告書では「事業等のリスク」や「コーポレート・ガバナンスの状況」等も開示することが求められるようになった。食品表示では、アレルギー、遺伝子組換え、栄養成分(エネルギー、たんぱく質、ナトリウム等)に関する情報等が記載されている。任意開示の情報も、ニーズの多様化(より安心な情報や少数のニーズ、新しい社会的課題の発生等)により、複雑さを増している。評判にしても、本当の消費者による口コミなのか、身元を隠して宣伝と気づかれないように宣伝をするステルスマーケティング(通称、ステマ)なのかを見分けるのが難しい場合も多い。だからといって増加・複雑化していく情報の信頼性を保つために、全てをルール化するのは現実的ではない。つまりルール化されてもされなくても、今後の開示情報の信頼性を判断することは難しくなっていくだろう。
こうした状況に対して企業が法定開示でも任意開示でも、詳細、かつ、わかりやすく、信頼性の高い情報を開示する努力を、今まで通り継続していかなければならないのは当然である。また企業だけでなく国や業界団体等が、広報や○○教育といった活動を通して、リスクや情報の読み方を周知することが重要であることに変わりはない。しかし我々は約10年前においてですら、自分で消費(内容を意識レベルで認知)する情報量の1.5万倍以上もの情報に囲まれていた(図表-右)。一日は24時間で脳も一つしかないのに、流通する情報量はさらに増えているため(図表-左)、消費する量との差は約2.6万倍に広がっている。すでに「お墨付きや評判等」に情報の信頼性判断を委ねる手法は限界にきていると考えた方がいいだろう。まずは「お墨付き」の持っている意味・カバーしている範囲や、「評判」情報そのものの信頼性を何で見るか等、信頼性判断をするための情報に対する信頼性判断を行うことから始めなければならない。今後、情報の受け手である我々は、こうした情報を解釈・評価・利用する能力(情報リテラシー)を向上させるための手間隙をかける覚悟が必要となろう。

(注)流通情報量:電話、インターネット、放送、郵便、印刷・出版等を用いて、情報受信点(電話機、PC等)まで届けられた情報量
消費情報量:情報消費者が、受信した情報の内容を意識レベルで認知した(電話で話す、ブログを読む、等)量
(出所)情報通信政策研究所調査研究部 「我が国の情報通信市場の実態と情報流通量の計量に関する調査研究結果(平成21年度) —情報流通インデックスの計量—」をもとに大和総研作成
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