期待されるFATCA(米国の外国口座税務コンプライアンス法)への政府対応

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2012年02月16日

  • 吉井 一洋
2012年2月8日、米国のIRS(内国歳入庁)は、FATCA(米国の外国口座税務コンプライアンス法)の規則案を公表した。FATCAは、米国の納税者が米国外の金融機関に開設した口座を用いて税逃れをするなどの行為を防止するため、米国外の金融機関(Foreign Financial Institution,以下「FFI」)にコンプライアンスを徹底させることを目的としている。概略を言えば、FFIに対して、IRSと契約を締結(※1)し、下記を実施することを求めている。

  • 米国人・米国法人の口座(以下「米国人等口座」)の有無の確認
  • 米国人等口座に関する一定の情報をIRSに年1回報告
  • IRSとの契約により求められる義務のコンプライアンスの確認
  • 米国源泉所得からの、非参加FFIや要求される情報の開示を拒否する非協力的な口座保有者への利子・配当等、売却代金、一定のスワップなどの支払い(以下「パススルー支払い」)に対して30%の税率で源泉徴収をする。

同制度は、原則として2013年からの導入が予定されている。米国外の証券会社・金融機関・ファンド等のFFIに対して重い負担を強いるものであり、わが国の証券会社・金融機関等も同制度への対応に追われているところである。今回の規則案では、対象となる口座の定義の見直し、適用が免除されるFFIの範囲の明確化、米国人等口座の特定のための手続きの見直しなど、FFIの負担軽減が図られている。

しかし、それよりも注目されるのは、同日、米国財務省が、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国(以下「パートナー国」という)の政府と共同で発表した声明(※2)である(以下「共同声明」という)。

共同声明では、これらパートナー国のFFIに対しては、FATCAに関する米国のIRSとの契約締結、米国人等口座情報のIRSへの報告、パートナー国のFFIに対する支払いに対するFATCAに基づく源泉徴収、これらFFIによるパススルー支払いへの源泉徴収を免除することとしている(※3)。その代わりに、これらのFFIに対して、特定した米国人等口座の情報を所在するパートナー国に報告することを求めている。パートナー国政府は、FFIから報告された情報を、自動的に、米国に報告する。

他方で、米国も、これらパートナー国の居住者の米国金融機関の口座に関する情報の収集、パートナー国への報告を自発的に行うこととされている。

さらに、米国及びパートナー国は、当該仕組みを、情報交換のためのモデルとしてEU諸国やOECD諸国に普及していくことをコミットしている。

わが国でも、政府がこのような対応を実施すれば、FATCAに関する証券会社・金融機関の負担を大幅に軽減することが可能となる。また、わが国では、国外財産に係る所得の申告漏れや相続財産の申告漏れが増加傾向にあることを踏まえ、2012年度税制改正により、国外財産調書制度(※4)を導入する予定である。上記の仕組みに加われば、わが国の居住者が海外金融機関に開設した口座に関する情報を、米国のみならず、他のパートナー国からも提供を受けることも、将来的には、可能となることが予想される。わが国の政府には、効率的なタックスコンプライアンスの実施のためにも、積極的な対応が望まれるところである。

(※1)IRSと契約を締結したFFIを参加FFIという。
(※2)Joint Statement From the United States, France, Germany, Italy, Spain and the United Kingdom regarding an intergovernmental approach to improving international tax compliance and implementing FATCA(米国財務省)
(※3)米国及びパートナー国は、パススルー支払いの源泉徴収の政策目的を達成するための実務的で有効な別のアプローチを開発することとされている。
(※4)その年の12月31日時点において価額の合計額が5千万円を超える国外財産を有する居住者に対して、国外財産調書を、翌年3月15日までに、税務署長に提出するよう求めている。2014年から適用される予定である。

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