農林漁業分野における再エネ導入

~オランダに見るエネルギー供給者としての農業セクター~

RSS

2012年01月31日

  • 真鍋 裕子
昨年10月25日に発表された「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」(食と農林漁業の再生推進本部)では、「農林漁業再生のための7つの戦略」の1つとして、「エネルギー生産への農山漁村の資源の活用を促進する」ことが挙げられており、「地域主導で再生可能エネルギーの供給を促進する取組を推進し、農林漁業の振興と農山漁村の活性化を一体的に進めるための制度」を具体的に検討していくことが記されている。
これを受け、農水省は、農地法、森林法の特例、耕作放棄地の集約化や農地の換地に関する特例措置等に関する法律案を今国会に提出する予定だ(「農山漁村における再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律案(仮称)」)。さらに、平成24年度予算に「農山漁村再生可能エネルギー導入事業」として12.2億円を計上、農山漁村における再生可能エネルギーの導入可能性調査、モデル事業などを進めていくという。耕作放棄地を集約した太陽光発電、林地残材のバイオマス発電などが想定されている。

もともと農林漁業は、土地、水、気候(太陽・風)、生物資源等と関連が深いため、これらの資源を食料栽培と再生可能エネルギーの両者に生かそうとする考え方は自然な流れと捉えることができよう。まだ計画は緒についたばかりとはいえ、福島第一原発事故以降のエネルギー問題を抱える日本にとって、一次産業からのアプローチは明るい話題だ。津波による塩害や放射能汚染を受けた農地を有効利用できる可能性もある。

農林漁業と再生可能エネルギー供給事業が共生する形は、農業先進国と言われるオランダの経験が参考になると考えられる。オランダは国土面積が小さいにもかかわらず、アメリカに次ぐ農業輸出国としてよく知られている。特に、チューリップに代表される温室を利用した施設園芸の歴史は古く19世紀にまで遡る。しかし、一方で、温室で大量の化石燃料を消費していたことから、国民の批判を受け、環境負荷低減を追求してきた歴史があるのはご存知だろうか?そうした経緯は、日本の産業界が公害問題の歴史を経て、環境意識を高めてきたのとも似ている。
オランダでは、2020年以降に新設される温室はCO2排出をゼロとすることが求められている。その対応策として、

 

  • 太陽エネルギー利用
  • 照明の高効率化
  • エネルギー効率化戦略
  • 地中熱利用
  • バイオ燃料利用
  • 再生可能エネルギー電力の利用・発電
等が挙げられている。既に実施されている方策も多く、温室における太陽熱蓄熱システム(夏季の太陽熱を地中に蓄熱し冬季に利用する)や、石油化学産業から排出されるCO2を栽培促進に用いる試み(既に約200kmに及ぶCO2パイプラインが整備されている)が始まっている。さらに、自らのCO2排出をゼロにすることだけに留まらず、温室等を利用して再生可能エネルギー供給者となることも志向している。“The agricultural sector as a significant energy provider?”(InnovationNetwork Report No.11.2.2.284, Utrecht,The Netherlands, November 2011)のサマリーによると、2020年までに農業分野が持続可能なエネルギー供給の10%を担うことができると試算されている。こうした発想の背景には、オランダでは「農家」ではなく「農業起業家」、「農業経営者」という言葉が用いられることからもわかるように、再生可能エネルギー供給事業を新たな事業展開として捉える基盤があることも大きく影響していると思われる。

江戸時代から400年に及ぶ良好な日蘭関係であるが、農林漁業分野における再生可能エネルギー供給事業についてもまた、良好な技術・知恵の交流が進むことに期待したい。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。