マレーシアが面白い
2012年01月12日
アセアンの中でマレーシアは、シンガポールやブルネイを除けば、一番経済発展が進んでいる国として認識され、新興国というには、やや違和感があるレベルである。しかし一方で、先進国と比較した場合、まだ、相当の開きがあるというのも事実である。マレーシアは、後発国からの追い上げを受けると同時に、先進国と戦うには、競争力から見て、必ずしも十分ではないというのが現状であろう。
そのため、マレーシアの最重要課題は、いかに現状を打開して更なる発展段階へ進めるかということある。この視点で見た場合、最大の問題は、設備投資の不足である。GDPに占める投資の割合は、アジア通貨危機以前は、比較的高い投資割合を維持していたが、アジア通貨危機後、急激に割合が低下して、その後も上昇が見られない。設備投資は、技術革新を具現化して生産性を高める重要なツールであるため、生産性向上、競争力強化という観点に立てば、設備投資は最も重要な構成要素となる。
設備投資の割合が大きく低下してしまった背景には、アジア通貨危機以後、マハティール政権時代にとられた現地民優先政策(プリブミ政策)が影響していると考えられる。アジア通貨危機を契機に外資に対する嫌悪感が強まり、政策を内向きに変更したが、それが、経済の閉鎖性を生み成長を遅らせた可能性が高いからである。
2009年に誕生したナジブ内閣は、そのような分析も踏まえ、それまでの政策を転換して、経済開放に積極的になっている。足元でも規制緩和などを実施している他、12の重要分野を設定して、中所得国からの脱出を図ろうとしている。主なものは、石油・ガスの事業拡大、パーム油のハブ、国際金融センター、情報通信技術、電気・電子産業育成、クアラルンプール圏開発等である。ここからすると、今後のマレーシアの印象は、イスラム金融を中心とした国際金融都市としてのクアラルンプールというイメージ、パーム油の世界的有数市場、ICT技術普及国などとなると思われる。
ナジブ政権のやり方を見ていると、マレーシアに対する見方を変えなければならない気がしてくる。即ち、閉鎖経済ではなく開放経済だということである。インドネシアも開放経済政策で競争力強化、経済成長に成功している。こうした点も勘案すると、今後のマレーシアには結構期待できるかもしれないと思えてくる。ポイントは、(1)アジア通貨危機後に急激に低下してしまった投資割合を、どの程度回復できるか、(2)生産性向上の大きな担い手となる技術力ある中小企業をどの程度育成できるか、(3)技術革新の基本となるR&D投資やICT技術導入をきちんとできるか等である。
アセアンの今後については、基本、タイとインドネシアが中心となって動いていくと思われるものの、開放政策に変更したマレーシアも面白い存在である。
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