監査役会と監査・監督委員会~外付型モデルと内蔵型モデル(会社法改正とコーポレート・ガバナンスを巡って)~

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2011年12月28日

上場会社の不祥事などからコーポレート・ガバナンスの問題が関心を呼んでいる。12月に公表された「会社法制の見直しに関する中間試案」でも、「企業統治の在り方」に関して重要な内容が盛り込まれている。その中でも、社外取締役の義務化は注目されている。

例えば、東証上場会社の場合、東証規則により委員会設置会社又は監査役会設置会社のいずれかを採用する必要がある。このうち、委員会設置会社は、会社法上、社外取締役を複数選任することが既に義務付けられている。他方、監査役設置会社については、会社法上、監査役会の半数以上を社外監査役とすることが義務付けられているが、社外取締役を設置する必要はない。

こうした状況について、経済団体からは「社外監査役を選任しているのに、その上、社外取締役まで強制される筋合いはない」との主張がある。他方、投資者サイドからは「監査役会制度という日本独特のシステムを理由にしても国際的には評価されない」との反論がある。それなら両者の間をとって、今の監査役会をそのまま取締役会に取り込んで社外監査役を社外取締役に横滑りさせてしまえば、双方丸く収まるだろうという発想が、中間試案に盛り込まれた「監査・監督委員会設置会社制度」創設の背後に見え隠れする。

それでは、そもそも監査役会と監査・監督委員会とは何が違うのだろうか。両者の仕組みの違いを一言で言えば、前者は、監査機能を果たす機関を取締役会の外側に設置する「外付型モデル」であり、後者は、内部に設置する「内蔵型モデル」である。

「内蔵型モデル」を採用する場合の一番の問題点は、結局、「自分で自分を監査しているだけではないか」との批判を免れることはできないことである。取締役会という同じ組織に属して自らも賛成した意思決定に対しては、その監査の矛先が鈍る危険性が存在することは間違いないだろう。「内蔵型モデル」を採用する諸外国で、監督と業務執行を分離し、監査に係わる組織だけでなく監督機関である取締役会自体にも独立性を追求してプロセスの透明性を確保しようとしていることは、このコンテクストに従えば理解しやすいだろう。

この点、「外付型モデル」を採用する日本型監査役会システムは、なるほど良くできている。組織的には、取締役会と並列的な位置づけ(どちらも株主総会で直接選任される)の別機関である監査役会に監査権限が付与されている。しかも、監査役は、取締役会への出席義務と発言権限を付与されているが、取締役会で賛否の一票を投じる権限は慎重にも排除されている。その結果、監査役は監視者の立場で取締役会に乗り込み、問題点を厳しく指摘することができる。しかも、自らは賛否による参加をしていないことから、組織としての独立性を踏まえて、事後的に、取締役会の意思決定に対して心置きなく厳しい追及を行うこともできる。加えて、再三の警告にもかかわらず、取締役が「会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合」であって、その行為によって「会社に著しい損害が生じるおそれがあるとき」は、会社法385条に基づいて裁判所に取締役の行為差止めの請求を行うことさえ可能である。

しかし、こうした日本型監査役会システムの強みは、同時に、その弱点にもなり得る。その監査権限が「適法性」のみで「妥当性」には及ばないという点はよく知られている。これも、機関としての独立性を担保するため、経営判断から完全に切り離そうとする余り、あくまでも適法性の問題点を指弾する専門機関となってしまったと考えれば分かりやすい。

加えて、経営判断から徹底して隔離されたことは、結果として、人事権の問題を惹き起こしてしまった。すなわち、監査役の選任は、株主総会の決議事項ではあるが、その議案の作成・提出等を通じた候補者の選定は、業務執行の決定機関である取締役(会)の権限となっている。もちろん、会社法もこうした問題点を認識しており、取締役(会)が作成・提出等する監査役選任議案について、監査役会に実質的な拒否権を与えている(会社法343条1項)。理論上は、この仕組みを通じて、取締役会が実質的な人事権を通じて監査役会をコントロールする危険性を防止することになっている。この点を根拠に「制度上の欠陥ではなく、適切に拒否権を行使しない監査役や、提出された議案を無批判に可決した株主総会の方にこそ問題がある」という主張がしばしば見られる。確かに、こうした主張にも理解できる面があるとはいえ、議案提出権限と拒否権が衝突を続ければ、最終的にはデッドロック状態となり企業活動が大きく阻害されることや、一旦、取締役会が自分の意のままになる監査役会を構築することに成功してしまえば、それ以後は是正を図るインセンティブが機能しなくなることなどに対する十分な説明にはならないことも事実だろう。

いずれにせよ、万能のモデルは存在しない。どのモデルを選択するにしても、その特徴を理解して、長所を伸ばし、短所を補う工夫が不可欠である。「内蔵型モデル」の場合には、その弱点である機関としての独立性を補完することが必要であり、そのためには、構成員の属性としての独立性を徹底して追求する方法が考えられることは既に述べた。他方、「外付型モデル」の場合は、監査権限の範囲、人事権の問題に対処する工夫が求められる。社外取締役を設けて、取締役会のメンバーの中にあって監査役会と協力・連携する役割を担ってもらうというのは、一つの有力な手段となろう。

その意味で、社外取締役の義務化は、古き良き日本型監査役会システムを破壊するものではない。むしろ、その良さを引き出し国際的に認知させるものだとも考えられよう。そのように考えれば、筆者のような委員会設置会社の支持者はともかく、日本型監査役会システムの支持者こそ社外取締役の義務化に賛成してもよさそうなものだが、実際はそうでもないようだ。もっとも、法令によって強制すれば、形ばかりの「お飾り」が粗製乱造されることを懸念してのことであれば、それも確かに一理ある。所詮、制度は「装置」に過ぎない。どんな立派な「装置」を搭載しても「運転手」(経営者)にその気がなければ有効に機能することは期待できないだろう。しかし、外からは「運転手」の「心」が読めない以上、目に見える「装置」の方を改善しなければ、「乗客」(株主・投資者)の不信感を拭い去ることは難しいのではないか、筆者にはそう思われてならない。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳