上場企業に「社外取締役の選任義務付け」を前提としたガバナンス改善が求められる

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2011年12月27日

  • 藤島 裕三
法務省の法制審議会は12月7日、会社法改正の中間試案を発表、同14日からパブリックコメントの手続を開始した。法務省は2012年中にも改正案を取りまとめる方針だが、経済界から強い反発を受けている内容も含まれており、さらなる検討が重ねられよう。その最たるものとして、社外取締役の選任義務付け・要件見直しが挙げられる。

中間試案は社外取締役の選任について、監査役会設置会社に義務付けるA案、有価証券報告書提出会社に義務付けるB案と共に、現行制度のまま義務付けないC案を併記した。また社外取締役の要件については、親会社の役職員(10年間の冷却期間)および役職員の近親者を排除するA案と、現行制度のまま変更しないB案を提示している。

夏頃までの情勢としては、社外取締役に関する諸改正の実現性は必ずしも高くないと思われた。しかし企業不祥事が相次いだことで、わが国コーポレートガバナンスの信頼性は揺らいでおり、急激に規制強化を求める声が強まっている。こうした中で上場会社としては、社外取締役の選任義務付け・要件見直しを前提とした取り組みが迫られよう。

外堀は埋まりつつある。民主党は11月10日に資本市場・企業統治改革ワーキングチームを設置した。社外取締役の選任義務付けなどを検討、法制審の議論に反映させるという。また議決権行使助言サービスの最大手ISSは11月17日、社外取締役が1人もいない場合、経営トップの再任に反対するという新基準を発表した(2013年の実施)。

法改正の影響は現状、社外取締役を選任していない企業に止まらない。全上場企業の約半数に当たる社外取締役の未設置企業が、堰を切って人材確保に走るのである。既に社外取締役を選任している企業においても、退任者の後継を招聘することが難しくなることは明らかである。複数の社外取締役を選任している企業においては尚更だろう。

社外取締役はもちろん、誰でもよい訳ではない。投資家から認められる独立性と、社内で機能する実効性が求められる。これらを確実に担保するためには、自社に望ましい社外取締役の選任基準を設定すること、そして選任した社外取締役を十分に活用するための仕組み(情報伝達の手続、取締役会運営のルールなど)を整備する必要がある。

昨今、社外取締役を複数選任しているなど、ガバナンスの「形」が整っていても、不祥事が生じたではないかと指摘する声がある。しかし社外取締役を選任するだけが「形」ではない。社外取締役に何を求めるか、どのような資質が必要か、いかに活用できるかなど、一連の議論や取り組みも含めた、トータルとしての「形」が求められる。

コーポレートガバナンスの改善活動において避けるべきは、身内の視点に偏った独善的なものに陥ることである。そのため取り組みに際しては、外部の目を取り入れた議論を基に進めることが重要である。自社の風土や事業の特性を前提としつつ、資本市場から相応の評価を獲得、ひいては企業価値の創出に資するガバナンス向上を図られたい。

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