新たな時代を迎える日本のESG投資~「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」

RSS

2011年12月21日

  • 伊藤 正晴
去る10月6日、環境省ウェブサイトにおいて、我が国における金融機関等によるESG投資(※1)のイニシアティブである「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」が公表された 。これは、昨年6月、環境相の諮問機関である中央環境審議会に設置された「環境と金融に関する専門委員会」がとりまとめた報告書 において、「日本版環境金融行動原則」の策定が提言されたことを受け、その趣旨に賛同した金融機関等25社が自主的に起草委員会を組織し、約1年の議論を経て策定したものだ。

世界的には、機関投資家などのESG投資の原則を定めた先例として、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)によるPrinciples for Responsible Investment(PRI=責任投資原則)がある。これは、投資家による投資の意思決定プロセスにESGの視点を反映させるための考え方を示した原則であり、機関投資家等がESG投資に取り組む際の一助となる枠組みを提供するものとなっている 。PRI署名機関の数は、欧米の主たる公的年金基金や運用マネジャーなど920(2011年7月末時点)にまで増え、その運用資産総額は30兆ドルに達している。ESG投資の存在感は確実に増していると言えよう。

日本の状況をみると、その署名機関のうち日本の機関は19と少ない。また、日本のESG投資の市場は、年金等の機関投資家がメイン・プレイヤーである欧米とは異なり、エコファンドなど個人向けの公募投信が殆どを占めるため、数千億円程度にとどまっている。しかし、日本でもCSR(企業の社会的責任)や地球温暖化問題、インパクト・インベストメント(※2)等に関心を持つ投資家層が増えていることを考えると、ESG投資への潜在需要は拡大していると言えるのではないか。

PRIは世界の投資家を対象とした投資行動に関する指針であるのに対し、「金融行動原則」は環境省が事務局となって、日本の金融機関を対象に投資行動だけでなく預金、保険、リースなども含めたすべての金融行動に関する指針として策定されている。PRIが包括的宣言と原則本文から構成されているのと同様に、「金融行動原則」も、原則ができた時代背景を示す「はじめに」と、持続的社会構築のために金融が果たす役割等について触れた「前文」に続く形で、7つの原則が示されている。加えて、金融業界全体から幅広い参加(署名)を促すため、「運用・証券・投資銀行」、「保険」、「預金・貸出・リース」の業態ごとのガイドラインを設け、その中でそれぞれのサステナブルファイナンスを推進する上で参照すべき諸基準、取り組み事例の主な切り口を示していることが特徴となっている。

「金融行動原則」への署名は11月15日より開始され、12月14日時点で署名を終えた金融機関は63社で、銀行、信用金庫、保険、証券などさまざまな金融機関が署名している。大和証券グループでは、大和証券グループ本社と大和証券投資信託委託が署名した。また、年明けには第一回署名機関総会が開催される予定である。ESG投資への取り組みが遅れていた日本の金融界においても、今回策定された「金融行動原則」が、ESG投資実行に向けたガイダンスとして各社の創意工夫を促し、市場拡大の契機となることが期待される。

(※1)Environmental, Social, Governanceの頭文字。これらの要因にも留意した投資をESG投資と呼ぶ。他に、用語としては社会的責任投資(SRI)がある。
(※2)貧困解決や疫病予防等、社会的問題の解決を含んだ投資行動あるいは商品等。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。